免震構造
★化学同人の月刊誌「化学」の2011年12月号に
「理工系大学の『根本的な地震対策』を考える」
という特集が組まれています。
その中で東北薬科大学薬学部の吉村祐一准教授が「免震構造はいかに有効か」という記事を書いておられます。
1978年の宮城県沖地震によって大きな被害を受けた反省に立って、2002年の建て替えで、教育・研究棟に免震構造を導入したそうです。
積層ゴムアイソレーター、鉛ダンパー、鋼製U字型ダンパー一体型積層ゴムという3種類、計53台の免震装置が導入されました。
その結果、今年3月の東日本大震災で、ある程度の被害は生じたものの、大きなダメージはなかったそうです。
★さて、この記事を読んでいてびっくりしたのが「罫書き(けがき)板」という装置による地震の記録です。(太字、下線は「かかし」がつけました。)
地下には罫書き板と呼ばれる建物側に固定されたニードルと地面に置かれたステンレス板からなる装置があり、地震の際、建物がどの程度動いたかを測定・記録していた震災直後に装置に残されていた罫書き線から、本震時、ウェリスタが東西方向に440mmの最大振幅で揺り動かされていたことが明らかとなり、その地震エネルギーの強大さにあらためて驚かされた。実際は免震装置の効果によって、揺れる地面に対し建物が慣性により空中で止まっているイメージになるとのことである。
この罫書き板に残された記録の写真を見ることができます。
化学同人のホームページから、月刊「化学」のコーナーに入ります。
http://www.kagakudojin.co.jp/book/b95004.html
↑ここです。
ここに
〔解説〕免震構造はいかに有効か── 被害が最少限にとどまった東北薬科大学 ●吉村祐一
という行があり、その行頭に本のマークがありますので、それをクリックすると、別ウィンドウで、AdobeFlashPlayerで読める電子ブックが開きます。(無料です)。
そこに写真や図もありますのでぜひご覧ください。
★よくまあそんな罫書き板を設置してあったものだと感心しました。
免震装置の働きを検証するために設置しておいて、実際に地震があった際に記録を残し、解析し、さらに免震装置の改良などに利用するのでしょうね。
で、引用文にあるように、動いているのは地面なんですね。建物は免震装置で地面と切り離されているので慣性によってとどまっている。針は止まっていてステンレス板が動いて記録が取れたわけです。
巨大な「ダルマ落とし」を想像して下さい。一番下のブロックを叩くとそのブロックが急速に動きますが、上に積まれたブロックおよびダルマは追随できずに空中に止まる。で、ダルマ落としが成立するわけですね。
そうなんだぁ。頭の中で物理的には分かるけれど、実際の建物でそのようなことが起きるというのはすごいことですねぇ。
★そもそも、地震計の原理とはそういうものです。
地震計は地震と一緒に揺れているのにどうして揺れを記録できるのでしょう?
どこかに「動かない点」を作れればいいのですね。そうすれば揺れが記録できます。
上の罫書き板の場合は、建物が慣性で動かないので、そこにつけられたニードルは動かない。
それに対して、地面が動く。
そこで、地面の動きが記録される、ということです。
★いやぁ、「教師眼」が活動してしまう。現役の理科教師だったら絶対この写真を教材に使いますね。何年たってもこの「教師眼」が抜けないなぁ。何か見ると「これ授業に使える」というように見てしまいます。
私のホームページの理科おじさんの部屋でもこの問題を扱ったことがあります。
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/113th/sci_113.htm
共振・共鳴
小学校6年生とやった実験や考察ですから、学問的な厳密さはないけれど、分かりやすく書いたつもりです。
地震計について書いたことはこんなことでした。
・揺れないところがあれば揺れを記録できるのです。これが地震計の原理なのです。
・振り子の周期が地震の揺れの周期と一致しなければ、振り子は揺れないのですね。
・すべてが揺れる地震の最中に、空間に動かない点(不動点)を作りだして、揺れを記録する。
★戻って、東北薬科大学の記録はすごいです。必見です。
もし、罫書き板を撮影するカメラでもついていて、動いている様子が撮影出来たらすごいことだったでしょうね。
建物側にカメラを設置すれば「地面が動いている」のが記録できたはずですね。
地面の方にカメラがあれば「建物が動いている」と見えるわけですが。
ニードルがステンレス板をひっかく様子なんて、ものすごいものでしょうね。
知的興奮を味わった記事でした。
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