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2011年10月17日 (月)

昆虫の視覚、嗅覚、味覚など

http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-7d28-1.html
2011年10月13日 (木) ヒメグモD:3

↑この記事にコメントを頂きました。

「考えてみたら蝶や蜂は花に集まりますね。あれは香りに引かれてでしょうか。それとも何か目に見えるものがあるのですか。」

★ヒトの色覚は3原色といいますが、不完全な3原色の色覚です。
恐竜の時代、哺乳類は夜行性になったため、明るさに感度を上げましたが、色覚を一部失って、2原色になりました。その後、サルの仲間では、赤の遺伝子を重複させて、緑の色覚を回復させて3原色になりました。
でも、正直のところ、赤と緑の感度曲線はごく近いので、2原色のような色覚しかもっていません。
下のサイトにある「分光感度」というグラフを見て頂ければ分かります。
http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/lab/colorresearch.html

アゲハの色覚は5原色といわれます。赤・緑・青・紫・紫外です。
http://www.sendou.soken.ac.jp/esb/arikawa/research_j.htm
このサイトに、アゲハチョウの色感度のグラフがあります。
感度のピークがきれいに分離していますので、おそらく、非常にクリアな色覚を持つと思われます。

ミツバチの色覚は緑・青・紫外の3原色といいます。
http://www2.toyo.ac.jp/~yamaoka3/biosrv/pdf/exp/chapt_3_4_pigments.pdf
このpdfファイルの2ページめにミツバチの色覚のグラフがあります。

このように、アゲハでは紫外から赤まで見えますので、花の色を見て、「花だ」というような認識を持って花に集まるのかもしれません。
ミツバチは赤が識別できませんので、赤い花の色に惹かれてやってくるというのは無理かもしれません。
ところが、アゲハもミツバチも紫外線が見えます。
ヒトには見えない紫外線の領域で花弁に模様がついているものがたくさんあることが知られています。「花蜜標識」(ネクターガイド){蜜標:ハニ―ガイド としていることもあります。}といって、ここに蜜があるよ、と知らせる模様が見えるのだそうです。

http://www.bio.sci.toho-u.ac.jp/column/200702.html
このサイトにタンポポの紫外線写真があります。
緑を吸収してしまう葉のなかに、明るく花が浮き上がり、紫外線で見えるガイドが際立つのです。
{このサイトにありましたが、白い花の上の白いクモ。ヒトの目には目立ちませんが、クモの腹部が紫外線を吸収し、結果としてクモはネクターガイドに擬態しているのだそうです。}

◎というわけで、アゲハやミツバチが視覚によって花を認識していることは確かだと思います。

★ところで、腐った果実などにタテハチョウの仲間やハエが集まることもよく知られたことです。
これは視覚によるものではないでしょうね。多分嗅覚によるのではないでしょうか。
腐った果実、発酵している樹液などからでる「におい分子」を感じて誘引されるのではないでしょうか。
溶液中の分子による刺激を感受するのは味覚、気体中の分子が受容器内の液体に溶けてその刺激が感受できる場合は嗅覚ですね。これはヒトでも同じ。
昆虫の場合、フェロモンを受け取るのもある種の「嗅覚」ですので事情が複雑になります。

●花の香りや腐臭を感知して食物を探す嗅覚は、ヒト的な「嗅覚」という言葉で表現される感覚と似ていると思います。
ただ、昆虫に鼻はないので、嗅覚器官は触覚にあることが多いようです。
花を咲かせる植物と昆虫は互いに支え合い競争し合いながら「共進化」してきました。
虫媒花の花の色は昆虫の視覚とともに進化したのでしょう。
多くの花には香りがあります。これも花の色と同じく昆虫とのかかわりで進化したのでしょう。ですから、昆虫が花の香りに惹かれて花を訪れるというのも確かだと思います。

フェロモンの受容も嗅覚と同じように多くは触覚でなされます。
どのような感覚なのかは、ヒトにはフェロモン受容器がおそらく無いので、想像するしかありません。
アリやミツバチなどの社会性昆虫の「階級分化フェロモン」は有名ですね。
「道標フェロモン」「警報フェロモン」「性フェロモン」も有名です。
アリは歩くときに腹端部から地面にフェロモンの標識をつけて行き、それを触覚先端の嗅覚器官で検知しながら辿ります。これははたらきはフェロモンですが、「においをかいでいる」ともいえますね。
カイコガのメスが発する微量の性フェロモンをオスが触覚で感知して遠くからやってくる、というのは有名ですね。

◎ということで、食物の発する「におい」を嗅いで集まる、という行動もあることは確かです。

★昆虫の味覚について、少し。
味覚器官は口器のそばにあることもあります。

ハチやアリでは触覚にあります。
ですから、アリが触覚で何かを叩いているときは「味見」しているのかもしれません。
アブラムシのところへやって来たアリがアブラムシを触覚で叩いたりしていたら、アブラムシの分泌物の味を感じているのでしょう。

チョウやガやハエでは第一肢の先端にに味覚器があります。
アゲハがミカンの葉を前脚で叩いて(ドラミングといいます)、小さな傷を作り、その部分の味を感じて葉がミカンであることを確認して産卵する、という行動は有名です。(産卵刺激物質を感知すると、産卵行動が誘発される、という言い方もあります。)
これは、他のチョウでもほぼ同様。

ただねぇ、やみくもに全ての葉に対してドラミングを試みるのは効率が悪すぎますよね。嗅覚(あるいは視覚)の助けはないのかなぁ、と私は思うのですが、そのあたりを詳述した論文を見たことがなくって。わかりません。

他方、花にとまったチョウが前脚で味をみていることはないのか?というのもよく分かりません。
どうなんでしょうね。

★追加:タテハチョウの仲間は見かけ上脚が2対4本しか見えない、という事実があります。
前脚は胸のところに畳んでいます。じゃあ、その前脚は無用なのか?
以下、私の想像ですが
タテハチョウの仲間が、他のチョウやガと進化的にものすごく離れてしまったわけではないでしょうから、やはり産卵行動におけるドラミング、味見という行動は共有しているのではないでしょうか。
タテハチョウの仲間の産卵行動をじっくり見るチャンスがありましたら、ぜひ、普段畳んでいる前脚を使ってのドラミングを行うかどうか観察してみて欲しいのです。これはアマチュアのチョウ好きでは無理かな、とも思いますので、ぜひ研究者の方にお願いしたいところです。

{アリが道標フェロモンを検知するために、触覚で地面をたたく行動は、嗅覚でフェロモンを検知しているのか、味覚でフェロモンを味わっているのか。どっちだろう?などと益体もないことも考えます。}

★オマケ:チョウのお尻には目があります。
尾端光受容器といいます。
オス・メス両方にあります。
オスにとって、交尾中に尾端光受容器からの信号が消えるということは、交尾器がきちんと結合しているというサインになります。不完全な結合では光が入るので、尾端光受容器から信号が出ます。その状態ではオスは雌に精子を渡しません。

メスは、ドラミングして幼虫の食草であることが確認できると産卵に入るわけです。
腹を曲げ、産卵管を突き出します。産卵管には、機械的な刺激に反応する感覚毛が生えていて、その触覚によって葉の位置を確認し、卵を送りだし産卵します。
このとき尾端光受容器から光を検知したという信号によって産卵管が充分に突き出されていることを確認し、そのうえで卵を送りだします。
尾端光受容器が壊れると、産卵管が出たかどうかわからなくて、機械的な刺激で葉を検知しても産卵できなくなります。

[参考文献]
「生き物はどのように世界を見ているか」編者・(社)日本動物学会関東支部、学会出版センター、2001.11.10

「昆虫の生物学 第二版」松香光夫 他 著、玉川大学出版部、2000.4.8

「感覚器官の進化」岩堀修明 著、ブルーバックスB-1712,2011.1.20

★またオマケ
http://www.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/uvir/hana_uv.html
このサイトに「花の簡易デジカメ紫外線写真」の写真があります。
また「昆虫の視覚と紫外線」などの話も豊富ですので是非ご覧ください。

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コメント

本当に詳しく教えて頂いてありがとうございました。驚くことばかりでした!

一昨日、黒揚羽が庭のレモンと夏みかんに産卵する様子を間近に見ました。優雅に飛びながらの産卵でしたが、レモンの枯れ枝と夏みかんの横のブルーベリーに掛けた青いナイロンの網にも産卵したのに驚きました。

全部の産卵が前脚で食草を確かめるような慎重さはなく、かなりアバウトな蝶もいるのでは無いかと思いました。

コメントありがとうございます。返事が遅れてすみません。生き物はみなどこか「ゆるい」ものです。一旦レモンやナツミカンで食草であることを確認したら、後は「勢いで」ということはあり得ますね。そういうゆるさがまた進化を可能にするのではないでしょうか。そんな気もします。

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