リニアの電源について
今朝、ネットで新聞を読んでいたら、毎日新聞のサイトで面白い記事を見かけました。(下線は私がつけました)
毎日新聞(2011年9月14日 1時59分 更新:9月14日 2時15分)
リニア電源:世界初の「誘導集電方式」 JR東海採用
JR東海は13日、2027年に開業するリニア新幹線専用車両への電気供給方式について、非接触型の「誘導集電方式」を採用すると発表した。軌道沿いの放電コイルから、通過車両に電気を飛ばして給電する仕組みで、鉄道のような大規模システムへの全面導入は世界で初めてという。
リニアは浮上式で、走行には超電導磁石を使う。架線やパンタグラフがないため、空調や照明、磁石の冷却用などに電源を確保する必要がある。リニア1編成(12両相当)を時速500キロで走行させるには3.5万キロワットの電力が必要という。
JR東海は07年から山梨県の実験線で研究を始め、13日の国土交通省の技術評価委で同方式の実現性が認められた。実験線では同方式のほか、車両に搭載したガスタービンでも発電している。しかし、ガスタービンは排ガスが発生するなどし、同社中央新幹線推進本部は「新方式の採用決定で、より環境負荷の少ない鉄道システムとなった」と話している。
長年の疑問が解決してすっきりしました。
リニアモーターカーの原理はあちこちで読めます。
駆動そのものに関してはあまり悩まなくても分かった気にはなれる。
でもよく考えると、リニアの車両内部には超電導コイルがあって、少なくとも液体窒素温度までは冷やさなくっちゃいけない。でのそのコイルで駆動するほかに、磁気浮上したり、軌道上のガイドもする。
安定した冷却のためには電力が必要です。
また、新幹線などに乗っていれば分かることですが、空調、照明、放送、食品用の冷蔵・加熱電力など、ハウスキーピング的な電力も不可欠ですね。
これらの車両内で必要とする電力は外部から供給されなければならない。
どうやって?
在来の鉄道なら架線(饋電線というのかな)からパンタグラフを通じて供給されます。
ところがですよ!!リニアは「非接触」が売り物なんです!!!
車両に電力を送ることは必要だけれど、接触によって送るわけにはいかないのですね。
当然、非接触で電力を送るとなれば、誘導起電力を使うしかない、ということは明白です。
電磁波で送るのは非現実的すぎますからね。ガスタービンの発電機もいいけどずいぶん重い物を積むことになります。
電動歯ブラシの充電、携帯電話の接点のない充電器、電池を内蔵していないカードの情報の読み取り(Suicaとか・・・)、みんなこの誘導起電力を利用して電力を送っているのです。
見えない所でいくらでもある「変圧器」も原理は同じです。
電気自動車(バスなど)の充電にも使えるという話もあります。
二つのコイルを向き合わせにします。
一方に変化する電流を流すと、そのコイルが作る磁力線が変化します。
もう一方のコイルでは、そのコイルを貫く磁力線が変化するとその変化を妨げる向きに電圧が発生し、電流が流れます。誘導の基本ですね。
で、ほら、接触していないのに電力が送れましたね。
送られた側がそれを電力としてそのまま利用しないで、熱にしてしまえば「IH」ですね。
Induced Heating かな。誘導加熱の調理器具も増えました。
これっきゃない。当然。
リニアの場合、外部のコイルでは一定の電流でいいはず。その上を車両が通過すると車両内のコイルを貫く磁力線は変化せざるを得ないので、電圧が発生します。
ただ、速度が速すぎて、車両内のコイルに発生する電圧が高くなりすぎないか、というような懸念はありますね。そのあたりをコントロールしなければならないでしょう。
さて、ここまで来て、もう一回、毎日の記事を見てください。
なっさっけねぇ~。
「電気を飛ばして給電する」だって。
記者の科学レベルが、馬脚を現してしまった。(ごめん、言い過ぎか)
これじゃぁ、「放電」ですよね。車両に向かってバリバリ雷のような放電が行われそうですよ。勘弁してほしい。
msn 産経ニュースではこうなっていました
msn 産経ニュース
リニアの電源確保で新方式 JR東海(2011.9.13 22:14)
国土交通省は13日、超電導磁気浮上式リニアモーターカーの車内の照明や空調に使う電源を確保するための新しい方式をJR東海が開発したと発表した。これまで車両に搭載していた発電機と燃料が必要なくなるため、事故時の安全性向上や排ガスの軽減につながる。
新システムは、リニアが通る軌道と車両の底面にそれぞれコイルを設置。軌道側のコイルに電気を流すことで磁界が変化して車両側のコイルで電気が発生する「誘導集電」という仕組みを利用する。
山梨実験線で試験したところ、実用に問題のないことが分かった。
JR東海は、設備の維持費や設置費を減らす研究を続け、2027年に東京-名古屋の開業が予定されているリニア中央新幹線で導入する予定。
「電気を飛ばす」に比べて、圧倒的に正確ですね。
JR東海のHPを覗いたのですが、プレス発表資料のようなものは見えませんでした。
記者会見のような形で話しただけなのかな。
となると、更に、記事を書いた記者の科学力が問われますね。
記者さんたちも勉強して下さい。
別件ですが。実は私はリニア中央新幹線というものにあまり関心がない。
そんなスピードで走ることに意義を感じないんだよなぁ。
そんなに急いでどこいくの?ゆっくり行きませんか?
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コメント
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気楽に誘導集電って言っていますが実はすごい技術なんです。少なくとも最近脚光を浴びているMITの2007年の電磁界共鳴よりも前に研究が始まっていて、既に完成の領域です。それでいてMITの電磁界共鳴とは全く別の技術のようで、自動車業界がMITの電磁界共鳴を採用しようとして全て破綻しているのを横目に見ながら、MIT方式をクールに無視して独自方式で完成するってかっこいいじゃないですか。もっとマスコミは注目すべきですね。
投稿: 電気おじさん | 2014年12月 8日 (月) 02時35分
コメントありがとうございます。
最初っから、リニア車内の電源はどうするんだ?と悩んでいましたので、「誘導集電」を知って、ほっとしました。
ご指摘ありがとうごっざいました。
投稿: かかし | 2014年12月11日 (木) 09時43分
亀レスですが、毎日新聞の「軌道沿いの放電コイルから、通過車両に電気を飛ばして給電する仕組みで」って何ですか
言っちゃ悪いけどこの記事書いた人は電波だなーっと。
原理が全然理解できてないですね。
投稿: 通りすがり | 2017年11月14日 (火) 18時21分
コメントありがとうございます。
メディアの「科学レベル」は千差万別ですね。
興味を惹かれた記事は、なるべくプレス・リリースを読むようにしていますが、多少めんどくさい。良質な記事を書いてくれるといいですね。
投稿: かかし | 2017年11月16日 (木) 13時39分