スズムシ:2 鳴くオス
翅を立てて鳴くオス。
翅の重なり合ったところをこすりあわせて振動を起こし、翅全体を共鳴板にして大きな声を響かせます。
左前翅の表てに「ツメ」というか「バチ」のようなものがあり、それで右前翅の裏の「ヤスリ」状の部分をこするのです。
左前翅が手前になっていて、右前翅が向こう側になっているところまではこの写真で確認できます。
ツメとヤスリまでは分かりません。
寿命がきて死ぬ個体が出てきたら、翅を外して観察してもいいかな、とは思いますが、今一生懸命鳴いている時にはとてもこれ以上のことはできません。
★ところで、ところで。
スズムシの耳はどこにあるでしょう?
スズムシでは、前脚の膝みたいな関節の下すぐの内側にあります。
コオロギでは外側です。
さて、疑問。
家中どこにいても人間の耳に聞き取れるような「大音声(だいおんじょう)」で鳴いているわけですが、発音器と耳が近すぎませんか?
自分の出す音のあまりの大きさのために耳が変になりそうだ、と思いませんか?
あまりにもやかましい、という気がしますね。
ロック・ミュジシャンなんかで、自分の出す音が大きすぎるので、耳栓したり、アンプを介した小さな音を聞くこともありますよね。
大音量で鳴くスズムシさんは耳は大丈夫?
すごく面白い話があるのですよ。
(下線は私がつけました)
http://web.mac.com/nakagome1/iWeb/Site/140CDB20-CCC4-4E62-B9E5-BCA2A53AB88B.html
中込弥男:「虫の鳴き声と聴覚」 雑誌「遺伝」2002年11月号の自著より改写
秋になると、鈴虫、コオロギなど、さまざまな虫が盛んに鳴きます。素晴らしい声ですが、体の大きさを考えると、ずいぶん大きな音です。鳴いている虫自身の耳は、大丈夫なのでしょうか。人間でも、サイレン並みの大音量を耳もとで何日も続けて鳴らされたら、耳を傷めてしまうでしょう。コオロギについての研究ですが、虫が耳を守っているメカニズムがわかりました。
コオロギの雄が鳴くのは、雌を引きつけ、逆にライバルの雄を追い払うためです。コオロギの「鳴き声」は、前羽をこすり合わせることで出しています。音量は100デシベルにもなります。音を感じる聴覚器(以下、耳)は前脚にあるので、音の発生源のすぐ近くです。自分の声がすぐに耳に入るので、何時間も聞き続けるのは耐えられないレベルでしょう。耳の感度を落とすわけにはいきません。ライバルの声や雌の気配を知るためには、鋭敏な聴覚が欠かせないのです。大きな声と鋭い聴覚の組み合わせの辻褄は、どうやって合わせているのでしょうか。
英国のケンブリッジ大学の研究者がメカニズムを調べました。コオロギの脳の神経細胞に微小な電極を取り付け(!)、音に対する反応を調べたのです。音に反応して聴覚の感度が下がることが分かりましたが、大きな音に反応して感度が下がるのか、自分が音を出すための動きに反応して感度が下がるのか、二つの可能性があります。そこで、音を出すための前羽を片方だけ取り去って、音が出ないようにしたコオロギを調べました。そのようなコオロギでは、前羽をこすり合わせるための筋肉を動かすと、音は出ないのに聴覚の感度が下がったのです。
音を出すための脳からの信号が出て、羽を動かすための筋肉が働くと、聴覚の感度を下げるための信号が働き、耳に入った音の信号を脳に伝える回路の途中にある神経細胞が抑制されて、音に対する感度が下がったのです。信号を出すのは遺伝子の働きです。
鳴き声とのタイミングは絶妙で、音を出す前羽の動きに連動して、聴覚の感度が上下します。声が出る直前も、直後にも鋭敏な聴覚が戻っているのです。このようなメカニズムによって、大きな鳴き声と鋭敏な聴覚という組み合わせの辻褄を合わせていたのです。いやはや恐れ入りますね。自然や生き物には、さまざまな不思議が隠されています。
これはコオロギについての話ですが、恐らくスズムシでも同様の機構が働いているのではないでしょうか。別のメカニズムを考える方が不自然ですよね。
すごいですねぇ。
耳がガンガンになってしまわないようにちゃんと調節しているんですって。
「遺伝」という雑誌掲載時に、同僚の先生から教えられて読み、感動しましたが、それがネット上で読めるようになっていて幸いでした。
コオロギやスズムシや、秋の虫たちの声を聞いたら、音を鑑賞する、音を出すメカニズムを思って感動する、耳の感度を調整するメカニズムまで思って驚嘆する、というのはいかがですか?
秋の夜長が楽しくなること請け合いです。
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