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2011年7月15日 (金)

フジタの乳白色

2011年7月6日の朝日新聞・文化欄に
フジタの乳白色、秘密ちらり 土門拳が撮ったアトリエに「シッカロール」
こういう記事が載りました。
部分的に引用します。

 ・・・
 ・・・制作中の藤田の写真を土門拳記念館(山形県酒田市)から借りると、そのうちの一枚に和光堂のシッカロール(ベビーパウダー)の缶が写り込んでいたのだ。1942年ごろ、東京の藤田のアトリエで撮影された。
 ・・・
 墨をのせるための画材をシッカロールで代用したのではないだろうか。
 シッカロールの主な成分はタルク(滑石)。余分な油分や水分を吸う性質がある。油絵の具を抑え、水性の墨を吸着するのにうってつけ。
 ・・・具体的な手法については「シッカロールを絵の表面にまぶしたのか、生乾きの状態で混ぜ込んだのかはわからない」という。
 ・・・
 シッカロールにはもう一つ、ジンクホワイト(亜鉛華)も多く含まれる。
 ・・・
 一般的な白の下地で、藤田もエコール・ド・パリ時代に使ったのはシルバーホワイト(鉛白)。ジンクホワイトは、ひび割れしやすく油彩の下地に向かないとされる。
 ・・・

◆「藤田」というのはもちろん画家の藤田嗣治のことです。
私はどうも絵画には疎くて、藤田の絵というのはまるっきり知らないのですが、この記事を読んでいると、かつて化学教師だった時代を思い出してしまいます。教材になるなぁ、この記事。昔の授業を思い出す。

◆シッカロールの成分としてタルク(滑石)が入っているというのはよく知られていると思います。
子どもの頃「蝋石」を使ってよく遊びましたが、あれの粉ですね。ケイ酸マグネシウムの一種です。
滑らかですから、シッカロールに向いてます。

◆では、なぜ「ジンクホワイト(亜鉛華、酸化亜鉛、ZnO)」が入っているのでしょう。
白色顔料がシッカロールに入っているのはなんでかな?
シッカロールを白く見せるため?

いえいえ、亜鉛華には医薬品としての作用があるのです。
日本薬局方に「チンク油」というのがありましてね、亜鉛華(酸化亜鉛、ZnO)を油で練ったものです。「チンク」はもちろん「Zinc」です。
小範囲の軽微な皮膚の炎症を鎮めます。いってしまえば、軽いかゆみどめ、ですね。
私はこれを使ってもらったことがある。高2の時に虫垂炎で手術をして、腹膜炎になりかかっていて長引いて、傷口を長くガーゼでおさえていたのですね。そうしたら絆創膏にかぶれた。かゆいのだけれど傷口の近くですからかいてはいけない。看護師さんがチンク油を塗ってくれたら、気持ちよく治まったのでした。

◆白色顔料としての亜鉛華はあまり性能が高いとはいえません。
顔料というのは固体粉末で、光を反射するものなのですね。
亜鉛華は屈折率があまり大きくないので油で練ると、油の屈折率と差が小さく、顔料としての反射性能があまりなくなってしまいます。
シルバーホワイト(鉛白)は塩基性炭酸鉛というものです。 
油絵の具の油を酸素と反応させる触媒になり、絵の具が「乾きやすい」のでいいのですが、いかんせん、鉛ですから有毒。

屈折率の大きな物質が白色顔料として性能がいい。

その点では、現在最も性能がいいのは二酸化チタンの「チタンホワイト」ですね。
ダイヤモンドより屈折率が大きいという物質の結晶ですから、油で練っても白さが変わらない。ポリエチレンに練り込んでも大丈夫。というので白いポリ袋にもつかわれますし。石鹸に練り込んでも白いから、チタンホワイト入りの石鹸もあるし。漆塗りで白というのは難しかったのがチタンホワイトで解決しました。
下地を隠す能力が高い、という性質は化粧品向きですねぇ。
{ダイヤモンドの微粉末は白色顔料として高性能であるはずですが、高いものなぁ。}
{酸化チタンの結晶が、ダイヤモンドフェイクとして宝石店にあるはずなのですが、飛び込みで欲しいといったら胡散臭い顔されて断られてしまった。そんな逸話を教室でしたら、宝飾店の経営者のお嬢さんがお父さんにその話をして、授業に使えるのなら、ということで安く分けていただくことができた、という話もあったりして。授業って楽しい。}

ガラスのかけらを、怪我しないように粉砕します。これをコップか何かに入れると「白い粉」に見えます。
ここへ、水を入れたり、あるいはサラダ油を入れてみましょう。ガラスが見えなくなってしまいますよ。
ガラスと水、ガラスと油の屈折率が近いので、反射が少なくなり見えなくなってしまうんですね。
ガラスの粉は白いけど、白色顔料にはなりません。
{太い試験管に水とベンゼンを入れて2層にし、生徒に見せます。無色透明なもの同士の境目がどうして見えるんでしょうね?と問いかけると面白い。陽炎はなぜみえるんでしょうね?というのと同質の問いかけになります。
で、ガラス棒を水とベンゼンの入った試験管に入れると、水の中のガラス棒はかろうじて見えるけど、ベンゼン中のガラス棒はほとんど見えない。生徒はびっくりします。}

◆白と黒
入射した光が全部の波長にわたって返ってくる時「白」といいます。逆に全部の波長にわたって返ってこない時「黒」です。
中間が「灰」。
入射した光の一部の波長が返ってくる時は「着色」します。

さて、こんな経験はありませんか?
風呂に炭酸ガス入浴剤を入れる。激しく発泡している間は泡からの反射で白く見えます。
泡が終わりになってきたときに、お湯が妙に黒っぽくなってしまった。そんな経験ありませんか?
この話は理科おじさんの部屋第39回にあります。
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/39th/sci_39.htm

カッターナイフの替刃を10枚くらい重ねて、刃の方を見ると真っ黒。この話は理科おじさんの部屋第6回にあります。
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/6th/sci_6.htm

白い雲は細かい水滴が光を反射するから「白雲」。
でも、水滴や氷粒の間へと光が入っていってしまうようだと「黒雲」

◆「白と黒」だけでも、ずいぶんいっぱい話ができるものでしょ。
「生活化学」という講座で、「白・黒・色」というテーマでいろんな授業を作りましたっけね。
そんな記憶が藤田の記事で蘇ってきてしまいました。
私ってね「授業屋」だったんですよ。


http://www.nttcom.co.jp/comzine/no088/long_seller/index.html
↑これは「ロングセラー考」のシッカロールのページです。面白い逸話が掲載されています。




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