新燃岳
●宮崎、鹿児島県境の霧島連山・新燃岳での噴火が続いています。毎日ニュースが入ってきますが、その中で、ちょっと理科的に解説した方がいいかな、と思われることがありますので取り上げてみました。
「空振(くうしん)」です。
一般的な解説としてはウィキペディアがあります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E6%8C%AF
空振(くうしん)は、火山の噴火などに伴って発生する空気の振動のうち、人間の耳で直接聞くことが難しいもの。人間の耳に聞こえる振動は爆発音と呼ばれる。
火山が爆発的な噴火を起こすとき、火口において急激な気圧変化による空気の振動が発生し衝撃波となって空気中を伝播することがある。火口から離れるに従って減衰し音波となるが、瞬間的な低周波音であるため人間の耳で直接聞くことは難しい。空振が通過する際に建物の窓や壁を揺らし、窓ガラスが破損するなどの被害が発生することもある。
今日のニュースでは
新燃岳、続く爆発的噴火 発生の頻度高まる(アサヒ・コム 2011年2月2日11時7分)
宮崎、鹿児島県境の霧島連山・新燃岳(しんもえだけ=1421メートル)で2日午前5時25分と同10時47分、爆発的噴火があった。1月27日に52年ぶりに発生して以降6、7回目。この噴火の約6時間前の1日午後11時19分には5回目の爆発的噴火もあった。1日に続き同日中に2度の発生となった。発生の頻度が高くなっており、気象台は引き続き、噴石などに注意を呼びかけている。
福岡管区気象台などによると、いずれの噴火でも、火砕流は確認されていないという。5、6回目の噴煙は火口から2千メートル上空に上がって雲に入り、火山が爆発したときに噴火の衝撃波が空気に伝わる「空振(くうしん)」も確認されたが、被害の報告はないという。
気象台によると、空振の大きさは新燃岳から南西約3キロの湯之野観測点で5回目のものが185.5パスカル、6回目が299.6パスカル、7回目が86.5パスカルだった。
これまで最も大きかったのは1日早朝に確認された4回目の爆発的噴火で起きた空振の458パスカル。この空振では、降灰被害などが少なかった新燃岳から南西側約5キロにある鹿児島県霧島市の病院やホテルなどで約300枚のガラスが割れるなどの被害が出た。
聞くことはできないけれど、空気の振動であるはずですが、「パスカル」という単位で強さが示されていますね。パスカルってどこかで聞きませんか?そう、気象情報で、気圧の単位として「ヘクトパスカル」という言葉をよく聞きますね。
空振という空気の振動が気圧と同じような単位で示されていますね。
爆発というのは「急激な体積の膨張」ですから、接していた空気は爆発の際に「圧縮」されるんですね。それが波として伝わってくる。そして、物体に当たると、その物体を押すんですね。そうすると、物体には圧力がかかる。ですから、空振を圧力の単位ではかることができるのです。
音だって、振動するものが空気を押したり引いたりして、その圧力変動が波として伝わってきて、音が当たった物体に圧力を及ぼすのです。ですから、空気の圧力で耳の鼓膜は押したり引いたりされて、音が聞こえるのですね。
じゃあ、音もパスカル単位で測れるの?
そうなんですね。音圧といって、音の強さも圧力単位のパスカルで測れるのです。
●まず、パスカルって何だ?から。
定義としては
1パスカル(Pa)は、1平方メートルの面積に1ニュートン(N)の力がかかっている、という圧力です。
まだピンときませんね。ニュートン(N)ね。
1kgの物体を地球が引っ張る力が9.8N(約10N)です。なんとなくイメージがわきましたか。
1m四方の板の上に1kgの物体が載っていると9.8Paなんですね。
逆にいって、1Paはというと、1m四方の板に100gのおもりが乗っている程度ですので、ずいぶん小さな単位なんですね。
●さてそうすると、4回目の爆発の空振は458Paだったということですから
1m四方の板の上に46.7kgの物体が乗っているのと同じということになります。
これだと、ガラスが割れますね。
体重50kg弱の人が1m四方のガラスに乗ったら、強化ガラスでなければ、割れそうですね。
実際に、ガラスが割れてけが人が出ました。300枚ものガラスが割れたとあります。
さもありなん。
いかがでしょう?空振の強さが実感できましたでしょうか?
大ざっぱな話、パスカルで表示された数値を10で割ると、1メートル四方に乗った物体の重さのキログラムでの数値になります。(大ざっぱにですよ)
458÷10≒46 でしょ。
5回目が約20kg、6回目が約30kg、7回目が約9kgと見積もると、ガラスは何とか耐えられるかもな、と思えます。(1平方メートルにね)。
ニュースを聞く時の参考にして下さい。
●1気圧って?
1気圧は101325Paです。
これを、1013.25×100Paと変形します。
キロとかセンチとかミリとかメガとかギガとかいう接頭辞をご存知でしょう。
ヘクト(h)という接頭辞は「100」を表します。
そこで、1013.25×100Pa=10313.25hPa
となるのですね。
普通、キロ、メガ、ギガ、テラと1000倍ずつで接頭辞を変えているのに、なんでここでは100倍のヘクトが出てくるのかな?
実は、昔は気圧をミリバール(mb)という単位で測っていたんですね。バールはcm、gなどを使ってあらわした圧力単位でした。それが現在のSIという単位系になった時、パスカルが標準になったのですけれど、気圧の数値を変えたくなかったんですね。
1気圧=1013mbだったので、数値が変わらないように
1気圧=1013hPaにしたのです。
{気象を離れて、自然科学的には、1気圧は0.101325MPa(メガパスカル)として扱うことが一般的です。}
●ところで音もパスカルで測れるんですか?
そうなんですね。
音も物体に圧力を及ぼしますので、当然その圧力はパスカルで測れるんですね。
とはいっても、音が及ぼす圧力は小さい。鼓膜が揺れる程度。
通常の会話の音声で桁として100分の1パスカル程度です。
空振で記録されている100パスカルの桁になると、もう、人間が音として聞くことのできる限界の圧力になります。鼓膜が破れますね。
理科年表から表を作ってみました。
ジェット機の騒音で10パスカルの桁ですものね、想像がつくでしょう。
●朝日新聞の鹿児島版にこういう記事がありました
「爆発音 けた違い」 空振被害の霧島(2011年02月01日)
大きな爆発音と空振が朝の温泉街を襲った。新燃岳が活発化して4回目の爆発的噴火。1日、火口からほど近い霧島市の山あいの地区では公共施設やホテル、民家などで相次いで窓ガラスが割れ、一連の噴火活動による直接の影響で初めてのけが人も出た。住民は驚きと不安を口にした。
新燃岳火口から約11キロ離れた霧島市霧島田口にある霧島市霧島総合支所では、1階の窓ガラスが1枚割れた。
近くにある霧島公民館では1階の会議室や和室などの窓ガラス3枚が割れ、トイレの1枚にひびが入った。霧島公民館に勤める嘱託職員の西さんは出勤前に自宅で爆発音を聞いた。「これまでとは、けた違いに大きな音でびっくりした」
そばの美容院でも縦1・5メートル、横1メートルの窓ガラス2枚が割れた。経営者の小園さんは「こんなに大きな音は初めて。今後のことを考えると怖い」と顔をこわばらせた。
・・・後略
まさしく、通常聞く音とは「音圧」の「桁」が違うのですね。
こういう時は数値そのものより、「桁」で物を考える習慣をつけると、かえって分かりやすいんですよ。
いかがでしたでしょうか?
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