●毎日新聞に下のような記事がありました。
新燃岳噴火:4回目の爆発的噴火 鹿児島・霧島で、窓ガラス割れ92歳けが
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同気象台によると、新燃岳から南西約3キロにある鹿児島県霧島市湯之野の空振計では458パスカルを観測。1月26日以降の最大値は同28日の81・8パスカルで、今回はその5・6倍になる。同気象台の上之薗正利防災調整官は「溶岩ドームでふたをされて火山性ガスが蓄積したため圧力が高まり、かなり強い空振を伴う爆発的噴火となった。今後、更にマグマが供給されると、再びドームが吹き飛ばされて強い空振が起きる恐れがある」と注意を呼び掛けている。
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■ことば:「空振とパスカル」
噴火に伴う空気中の圧力変化によって空気の振動が波のように伝わる現象が空振。パスカルは圧力を表す国際統一単位。秒速1メートルで動く1キログラムの物体を秒速2メートルにするのに必要な力(1ニュートン)が、1平方メートルに加わる圧力が1パスカル。その100倍が1ヘクトパスカル。気象庁火山課によると、人が音による空振を感じるのは10パスカルからとされ、数百パスカルになるとガラスが割れることもあるという。
毎日新聞 2011年2月1日 東京夕刊
間違ってはいませんけどね、この「ことば」という解説を読んで、どのくらいの方が「ああそうか」と納得するのかなぁ。既にわかっている人には不要の説明だし、ご存知ない方にはおそらくこの説明は混乱を増幅するだけではないのでしょうか。
マスコミの「報道力」「科学力」が問われますね。
●で、まぁ、すっきり分かるかどうかは自信ないですけれど、話の筋道をクリアにしておきたいと思います。
◆まずは、ニュートンの「運動の法則」から。
多くの方がご存知だと思います。標準的な表現は
第一法則(慣性の法則)
外的な力が加わらない限り、物体は静止或いは等速直線運動を続ける.
第二法則(運動法則)
物体の加速度は、加えた力に比例し、その質量に反比例する.
第三法則(作用・反作用の法則)
物体が互いに力を及ぼし合うときには、同一直線上で互いに逆向き・同一の大きさの力が働く.
こうですね。くだいて表現すると(私の物理授業での表現)
1:「力が加わらない場合、物体の運動状態は変わらない」
止まっていたものは止まったまま。動いていたものは、そのまま真っすぐ等しい速さで進み続ける。
2:「力が加わると、物体の運動状態が変わる」
止まっていたものが動きだしたり、真っすぐ等しい速さで動いていたものが、減速したり(止まったり)、加速したり、進む向きが変わったりする。
3:「力は単独では働かない」
押せば押し返され、引けば引き返される。
少しは「砕けた」でしょうか。
さて、この第2法則を式で書くと{本当はベクトルですがここでは無視}
F=ma
この式で力を定義することができるのです。
・定義:1[kg]の物体に作用して、1[m/s^2]の加速度を生じさせる力を1ニュートン(N)という。
{これが、毎日新聞の記事にあったものですね。}
・ kg、m、sはそれぞれ別個に独立に決めることのできる基本単位です。
それに対して、加速度という量は[m/s^2]という組立単位です。
これに質量がかかるので
力の単位は [kg・m/s^2]
という組立単位で表されます。
ただ、国際単位系でも力には「ニュートン(N)」という固有の名前を与えることが認められています。
・圧力というものは、力そのものではなく、単位面積にかかる力という量です。
同じ力で押しても、押す面積が小さければ圧力は大きくなり、面積が大きければ圧力は小さくなるのですね。
そこで
1Nの力が1m^2に及ぼされる時の圧力を「1パスカル(Pa)」と決めました。
基本単位で表すと圧力の単位は
[N/m^2]=[(kg・m/s^2)/m^2]=[kg/(m・s^2)]
という見慣れぬ組立単位になりますがこれでいいのです。
ただ、ここでも「パスカル(Pa)」という固有の名前を与えることをSIでは認めていますので、圧力の単位はPaだといっていいのです。
●ここまでを前提として前回の議論に入れるというのが正式な道筋ですが、めんどくさいですものね。
9.8N≒10N=1kgf
1N≒0.1kgf
こういう換算で身近なキログラム重(kgf)に引き寄せて考える方が楽でしょう。
そうすると、1Pa=1N/m^2=0.1kgf/m^2
1気圧=1013hPa=101300Pa/m^2=10130kgf/m^2
何と、1平方メートルに10トンですよ。1気圧ってすごいんですね。
今のところ一番強かった空振の圧力が458Paですから
458Pa=45.8kgf/m^2
だったのですね。
気圧単位で話すと
1気圧=101300Paから
458Pa≒0.005気圧
ということになります。
これでガラスが割れるんですね。
●ところで、昨日(2/2)の夜のNHKニュースだったと思いますが、新燃岳の爆発の瞬間に、山頂から「衝撃波」が広がって行く映像が見られました。
噴火口から瞬間的に音速をこえる速さで噴火が起きるんですね。音速をこえると衝撃波が発生します。
そこでは空気が圧縮され密度が高まり、屈折率が変わるので、無色透明な空気のなかでも爆発の鋭い衝撃波面は見えるのです。
爆発直後はこの衝撃波面はすごく密で、鋭いものですが、広がって行くとエネルギーを失って広がり、速度も落ち、やがて「大きな音」になります。
2月1日の4回目の爆発的な噴火を知らせるNHKのニュースで確かこういっていました。
「爆発的噴火から22秒後、火口から8km離れた地点のカメラが衝撃波で揺れました。」
8000m/22s=363.6m/s
ですね。
普通、音速は340m/s っていいませんか?
気温15℃で約340m/s です。
気温は15℃よりは低かったでしょうから、この時の340m/s弱だと思われます。
空振=衝撃波が音速を超えていた、ということが実感できましたでしょうか。
●超音速ジェット機が超音速のまま低空を飛行しますと、衝撃波面が超音速で地面を横切って行きます。すると、地上の人は「爆発音」を聞き、家のガラスなどが割れたりします。これをsonic boom(ソニック・ブーム)といいます。
今回の爆発的噴火でガラスが割れた事故は、火山爆発の超音速の衝撃波による破壊的なソニック・ブーム現象であった、といえると思います。
まだこれからも起きるかもしれません。ガラスをテープで補強して、たとえ割れても飛散しないようにするなどの対策が必要ですね。