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2011年1月21日 (金)

なぜ光が見えるのか?

 前の記事のトランス脂肪酸の話で、二重結合に関する、シスとトランスについてお話ししました。
 今回は、私たちの視覚の話をしましょう。
私たちの網膜の中で非常に鋭敏に明暗を感じる桿体細胞という視細胞には「ロドプシン」という物質があります。
このロドプシンは「オプシン」というたんぱく質が「シス-レチナール」という物質を抱え込んだ複合体です。

最近はあまり聞きませんが、ビタミンA欠乏による「トリ目」という、暗いところで視力が低下する病気がありました。ご存知でしょうか。
ビタミンAは、ニンジンなどのカロテノイドという赤い色素分子を半分に切った分子です。
Retinal
上の図でretinolと書いた分子がそうです。
この分子の端っこの-CHOHをーCHOに変える(酸化する)とretinalという分子ができます。(アルコールをアルデヒドに酸化する)。
見てわかるように、二重結合がたくさんあって、全部トランスの位置関係にあるので、ジグザグしながらも真っすぐな分子です。
この分子を、酵素がエネルギーを使いながら、一カ所だけ「シス」にして曲げます。
Cistrans_3_2

 安定なトランスから不安定なシスに変形するのですからエネルギーを入れる必要があるのですね。
こうしてできたシス-レチナールはオプシンというたんぱく質のポケットにすっぽりはまり込むのです。これが「ロドプシン」です。

 さて、瞳を通して光が入ってきました。光がシス-レチナールに吸収されると、光のエネルギーで二重結合部分が活性化状態になり、安定なトランス-レチナールになって真っすぐになってしまいます。すると、オプシンのポケットに納まっていられなくなります。ロドプシンがオプシンとトランス-レチナールに分かれてしまいます。すると、オプシンが変形します。
 この変化が視細胞の興奮を引き起こして、光を受けたぞ、という信号を視神経を通して脳へ送ることになるのですね。

真っすぐになってしまったトランス-レチナールはまた酵素が捕まえて、エネルギーを注ぎ込みながら、シス-レチナールへと折り曲げて、オプシンに納めて、また使うのです。

私たちの「視覚」が、分子の曲がった伸びたで行われているというのは面白いことですね。

ところで、このロドプシンの親戚分子が、古細菌の高度好塩菌という菌のプロトンポンプとして働いていることが明らかになっています。バクテリオロドプシンというのですが、曲がった分子が光を受けて真っすぐになる、という変化を利用して、水素イオンを細胞の中から外へ汲みだす仕事をしています。光のエネルギーを水素イオンの濃度勾配という形に変換しているのですね。さらに、この水素イオンの濃度勾配を利用してエネルギー通貨分子ATPを作るのです。

生物というものが遺伝子を使いまわして、いろいろと利用するという不思議。
我々真核生物の親戚である古細菌もそれを持っているという不思議。

生物って面白いですね。
(化学って役に立つなぁ。)

http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q52.html
「ロドプシン」にくわしいサイトです。

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