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2011年1月21日 (金)

トランス脂肪酸

2011年1月 6日 の「自然発火」という記事の中で

 植物油の分子内には炭素と炭素の「二重結合」が、動物の脂肪分子よりも多くあります。二重結合が多いと融点が下がり常温で液体の油となります。
そして、二重結合の部分は単結合より不安定で、空気中の酸素が結びつきやすいのです。

こう書きました↓
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-e027.html

 生物たちはきっと、生活温度の範囲で、油脂を液体にして体内を移動させるために融点をコントロールしているのでしょうね。
   {蛇足:「油」は「さんずい」ですから液体の油を指し、「脂」は「にくづき」ですので動物の脂を指すのだと思います。}

 融点の低い液体の油のままではマーガリンなどになりません。そこで、「水素添加」略して「水添(すいてん)」という反応を行います。ニッケルを触媒として180℃くらいで水素を加圧して反応させると炭素原子間の二重結合に水素が付加して単結合に変わり、二重結合が減る結果、融点が下がります。
このようにして「植物油原料のマーガリン」が作られるのですね。
「植物性だから(動物性のバターより)体に優しい」というようなイメージ宣伝がなされたわけです。
私は授業の中で、原料は植物油でも、反応後のものは植物油ではないのだから、その物質の性質で判断すべきなのだ、ということをいつも言っていました。

「もののことは ものにきけ」 これ化学の基本です。

「植物は優しい」というイメージは捨て去りましょう!(嘘なんだから)

 水素添加の反応時に、すべての二重結合がなくなるわけではありません。反応条件や時間などをコントロールして使いやすい融点にするわけですが、二重結合も残ります。
二重結合は残るのですが、高温での反応なのでこの二重結合に別の出来事も起こります。
Cistrans
 この図を見て下さい。一番単純な形で描いてみました。
二重結合を軸とする回転はできません。ですから、二重結合をはさむ炭素原子から出る4つの結合の手は同一平面内にあることになります。このときRに対してRの位置を「シス(cis)」といい、Rの位置を「トランス(trans)」といいます。
「シス」というのはラテン語で「こちら側」という意味で、「トランス」は「横切って」という意味です。{実は、厳密な話をすると、単純にシス、トランスだけでは済まない問題があって、もっと厳密な用語を定義しますがここでは触れません。}

 さて、Rに対してRは近いですよね。ですから、RとRがかさばるものである場合、邪魔しあって不安定です。
それに対してRは遠いので、かさばっていても余り邪魔にならず安定です。
そのため、シスの関係にある化合物が高温にさらされた場合、二重結合のうちの一本がいったん切れて回転し、安定なトランスになってもう一回二重結合が復活する、という変化が起きうるのです。
Cistrans_3
 イメージ図です。縦軸がエネルギーで上の方が高く下の方が低い。
シス型の方がトランス型よりエネルギーが高くて不安定ですが、途中の活性化状態という高エネルギー状態を経由しないと移り変わることができません。水素添加反応の反応条件下ではこの活性化状態を越えることができるものがあって、シスはより安定なトランスに変化してしまうことができるのです。(逆向きにトランスからシスへの変化だって不可能ではないけれど、確率的に安定な方への変化が多くなります。)

植物油などでは、健康によいとされるシス型の二重結合があるのですが、水素添加反応の際に、トランス型に変わってしまうことがあるのですね。

これが「トランス脂肪酸問題」というやつです。
要約すると、トランス脂肪酸はマーガリンや調理用植物油、菓子などに使われるショートニングなどに含まれ、「トランス脂肪酸」の取りすぎには健康リスクがある、という話ですね。

 この話、今度は逆にマーガリンはやめよう、みたいになってしまったわけですが、まだまだ完全な結論に至ったわけではないことも意識しておきましょう。摂取する油脂の絶対量だって問題なんだし、健康リスクというやつも大規模な疫学的な研究がなされたとも聞いていない。まあ、あんまりとりすぎるのは良くないかな、程度でいいですよ。
なのに、また、センセーショナルな動きが出てきた。
セブン&アイが「トランス脂肪酸殲滅作戦」に出た。

トランス脂肪酸含む商品、店に置かず セブン&アイ方針(アサヒ・コム 2010年12月26日)
 小売り大手のセブン&アイ・ホールディングスは、動脈硬化などとの関係が指摘されているトランス脂肪酸を含む商品を、原則として売り場には置かない方針を明らかにした。まずはコンビニエンスストアなどでの自主企画(プライベートブランド)商品での全廃を目指す。政府の規制に先駆けての大手の判断は、ほかの小売りや外食チェーンにも影響しそうだ。
 セブンは、いち早く全廃の方針を打ち出すことで、食の安全への取り組みをアピールしたい考え。「全廃」実現には、風味の低下やコストの増加といった課題はあるが「長い目で見れば、顧客の支持を得られる」と判断した。
 セブンは、コンビニやイトーヨーカ堂で扱うパンや菓子などの自主企画商品で、数年前からトランス脂肪酸の低減を進めてきた。しかし商品の一部には残っているものもあり、鈴木敏文会長は「自社で開発している商品では基本的に使わずに、ゼロに近づけていく」と話す。
 生産を委託している食品メーカー側に、トランス脂肪酸を含まない油脂への転換などを求める。他の脂肪成分がかえって増えないように、食品成分のバランスにも配慮するとみられる。
 さらに、自主企画商品以外でもできるだけ削減するよう、メーカーへの協力要請を強める方針だ。
 欧米では、食品に含まれている量の表示義務化や、油脂中の含有量の制限といった規制が始まっている。日本でも消費者庁を中心に、表示の義務化が検討されているが、動きが欧米よりも遅れていると指摘されていた。

やりすぎ!です。

善玉と悪玉に分けて、悪玉を殲滅する、というのはまあ大抵の場合に間違いですね。
適当に混じっていていいんです、っ。
 下手すると今度は、善玉トランス脂肪酸ゼロは健康によい→たくさん食べても大丈夫→油脂の過剰摂取 なんてことになるんだから。
善玉はあらゆる局面において善玉だ、なんて信じちゃいけません。
「程」というものがある。バランスが必要だ。
善玉も過ぎれば悪さをするんです。

まあ、こんなところを基礎知識として知っておいて、適当な量をおいしく食べていればいいのです。
ほどほどに、バランス良く。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%B3
「マーガリン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E8%84%82%E8%82%AA%E9%85%B8
「トランス脂肪酸」
どちらもバランスの良い解説です。
参考になさってください。

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