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2010年12月 9日 (木)

理科話(4):Yes

新聞記事です。

「動」の根岸、「静」の鈴木 両氏がノーベル賞記念講演
朝日新聞 2010年12月8日
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 根岸さんはダークスーツに金色のネクタイ姿でにこやかに登壇。大きな身ぶり手ぶりで動き回りながら「米国留学中、テストはよくできたけど、実験が苦手な学生だったから、もっと簡便な方法はないものか、と考えた」と会場の空気をほぐしてから本題に入った。
 「収率」、「効率」、狙った物質だけを作る「選択性」の英語の頭文字にちなみ、「Yes」な反応が大事だと持論を展開した。
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ノーベル化学賞:根岸氏の記念講演要旨
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 木も花も人間も、ほとんどが有機化合物でできている。有機化合物の合成には高い収率、効率、(狙ったものをつくる)選択性が重要で、これらの(英語の)頭文字を取ると「YES」になる。さらに経済的に効率良く行うことがグリーンな(環境に調和した)化学につながる。
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毎日新聞 2010年12月9日

根岸さんのおっしゃる「yes」は次のような単語の頭文字です。

収率=yield、効率=efficiency、選択性=selectivity

効率や選択性は、まあいいとして、収率=yield という概念は一般の方にはなじみがないかもしれないな、と思って簡単に説明します。

化学反応式 aA+bB→cC+dD において、a,b,c,dは、同じ原子の数が左辺と右辺とで等しくなるようにするための係数で、これを化学量論係数(stoichiometric coefficient)といいます。

こういう「化学反応式の通りに進む反応」を「(化学)量論的反応」といいます。
高校までの化学では、ここまでしか学びません。
で、この係数の釣り合わせに苦労したり、化学反応の量的な関係を比例で解いたり、苦労なさったかもしれません。高校化学で必要とされる「数学」はほとんど大部分比例だけなんですけれどねぇ。

2H+O→2H
水36gを作るには、酸素が32g必要だ。
これは確かなことです。化学反応式が書ければ、反応する物質の量と生成する物質の量の関係がきちっと決まるのですね。
量論的反応ですから。
ここまでだと根岸さんのおっしゃった「収率」という言葉は理解できないと思います。

「エッセンシャル 化学辞典」(東京化学同人)で「収率」という言葉を調べますと。

収率[yield]  ある化学反応において、反応式から理論的に計算される生成物の量Ycに対して実際に得られる生成物の量Yeの比率を百分率で表したもの、すなわち100ye/ycを収率という。

実は、有機化学で多いのですが、目的とする化合物のほかに、いろんなものが出来てしまうということが多いのです。実際の化学反応では、反応式通りに量的な関係が進む反応のほうがむしろ少ないのですね。
そこで、目的の化合物が得られる割合=収率、というのが大事になるのです。
複雑な化合物をつくるには、一段階の反応で出来てしまうということはまずありません。何段階も反応を重ねます。
ある反応で得られた物質を更に反応させて次の物質に変え・・・というような複数の反応を重ねていくとして、もし各段階の反応で収率が90%あっても、段を重ねるに従って掛け算で収率が落ちてしまうのです。
医薬品の合成とか、いろいろな身のまわりの物質の合成とか、いくら合成可能であっても、収率が低ければ工業化はできません。

今回のノーベル化学賞の「クロスカップリング」という反応は、結びつきにくくて収率の低い炭素-炭素間の結合を高収率でできるようにしたのですね。それによってノーベル賞に至ったのです。

高校化学は、収率概念が入ってこないように用心深く組み立てられています。やっかいですからね。
収率という概念は化学にとってとても重大なものなのですが。
元高校化学教師としては、頭の痛いことでした。

{私自身は、大学で有機物質の合成をやってましたから、収率の問題にはいつもぶつかっていました。文献を調査して、一番収率の高い方法や条件を探し、自分自身も収率を高める工夫をしました。画期的に収率を高められたら、そのことだけでも論文ものですからね。}

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