理科話(6):GPSの基本的原理
◆10月23日の朝日新聞夕刊に
ニュースがわからん!ジュニア版ワイド「GPSって何?」
という記事がありました。
ちょっとだけ気になることがありまして、ここでとりあげてみたいと思います。
GPSの原理全体を解説する気はありません。
記事の説明にこういう部分がありました
・・・
電波は、1秒間に約30万キロ進むことが分かっている。だから、衛星から電波が届くまでの時間を正確に計れば、距離が計算できる。正確に細かい時間を計るため、GPS衛星は原子時計という極めて正確な時計を積んでいる。
複数のGPS衛星からの距離がわかれば、より正確に位置を割り出せるようになる。GPS衛星を灯台に例えて考えてみよう。
灯台Aから、沖合の船に電波を送り、電波が届く時間を計ることで、船が灯台Aを中心とした半径100キロの円周上にいることがわかったとする。同時に、別の灯台Bからも電波を送り、同じ船が、灯台Bの半径120キロの円周上にいることがわかれば、それら二つの円の交わる所に、船があることがわかる。
・・・
これは分かりやすい説明です。
図の中には、海の上の船の位置のところに「2つの円の交わる場所にいるとわかる」と書きこんであり、もう一方の交点の方には「陸なので除外」とあります。
二つの円は2点で交わりますが、一方は「ありえない場所」を示すので、「ありえる場所」の方に自分がいるわけです。
で、この説明に続いて
・・・
実際のGPSでは、より精密に位置を割り出すため、対象が、どれぐらいの高さの地点にいるかといった情報も、合わせて計算している。合計4機以上の衛星から同時に電波を受信できれば、場所を正確に突きとめることができる。
・・・
とあるんですが、どうして4個なのかな?
実用ではなく、全くの原理だけでいえば、3個の衛星からの電波を同時に受信できればよいのです。
どういうことかというと、衛星から発される電波は球面を成して広がりますね。
2つの球の交わりは「円」になります。
この図でABというのは、二つの球が交わってできる「円」を真横から見たものになります。
さらにもう一つの衛星からの電波の球面と円の交わりは「2点」になります。(ちょっと想像力が要りますね。球と円は2点で交わる、という点を確認してください。)
すると、3つの衛星からの電波を受信すれば、自分の位置は2点のうちどちらかになります。
一方は、宇宙の上の方になってしまって、「あり得ない場所」を示すはずなんです。ですから、もう一方の「あり得る場所」が自分が今いる場所を示しているんですね。
ということで、あり得ない場所を排除するという論理が使えれば、原理的には3つの衛星からの電波を受信すれば位置が決定できるのですね。
ただ、実用上は、原子時計の精度の問題(=位置の誤差)があるので、最低4つの衛星からの電波を受ける必要があるので
◆NHK教育テレビの高校講座「数学基礎」という番組をもとにした本がありましてそこから引用します。
秋山仁「数学センスをみがこう<生活応用編>」2008年3月30日発行、NHK出版
・・・
GPS受信機は3つの人工衛星のそれぞれから送られてくる電波を受信する。人工衛星から送られてくる電波は、時刻の情報を含んでいる。電波を出した時刻と受け取った時刻から、電波が発信されてから受信機に届くまでの時間を算出する。電波の速さは光の速さと同じなので、速さと時間からそれぞれ人工衛星から自分のいる位置までの距離がわかる。球面上のどの点も、その球の中心から等しい距離にある。人工衛星A,B,Cのそれぞれを球の中心とし、自分と各人工衛星の距離を半径とする3つの球面を考える。それらの交わる点に自分は位置していることになる。
まず、2つの人工衛星A,Bを中心とする2つの球が交わったところは円になる。すなわち、2つの球面が交わる円上のどこかに自分がいる。そして人工衛星Cを中心とする3つ目の球面は、先ほどの(2つの球が交わってできた)円と2つの点で交わる。数学的には交点は2つあるが、人工衛星は地球に向けてだけ電波を発信しているので、2つの交点のうちの1方だけが決まる。このようにして、GPSは地球の回りを飛んでいる人工衛星を使って、自分の位置を知ることができる。(実際には時刻の誤差を調整するために4つの人工衛星を利用している)。
というわけですね。
技術的な詳細は知らなくても、こういう原理を知ればかなり楽しめますでしょ。それが「理系人間」の楽しみなんです。
◆ところで、こんな記事もありました。(日経オンライン)
準天頂衛星「みちびき」実証実験開始 カーナビなど精度10倍(2010/12/15 19:46)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)などは15日、全地球測位システム(GPS)を補強し位置決め精度の大幅向上を目指す準天頂衛星「みちびき」の実証実験を始めたと発表した。実験には約40の企業や研究機関が参加し、無人農機の自動運転や観光案内など約60のテーマに取り組む。
みちびきは今年9月に打ち上げた。3カ月かけて衛星の機能を調べ、問題がないことを確認。15日午前11時48分に実証実験の参加者が利用できるよう測位信号を標準モードに切り替えた。同日開かれた文部科学省の宇宙開発委員会に報告した。
みちびきは既存のGPSと組み合わせて利用すれば、カーナビゲーションシステムなどの位置精度を10倍程度高められると期待される。日本列島とオーストラリア大陸の上空を8の字を描くようにして周回する。
準天頂衛星のことについてはJAXAに詳しい解説がありますので興味のある方はそちらを読んで下さい。
http://qzss.jaxa.jp/01.html
気象衛星「ひまわり」は赤道上空3万6000kmの静止軌道上にありますが、原理的に赤道上以外には静止衛星はあり得ません。日本の上空に、「静止」に準ずる形で比較的長い時間人工衛星をおきたいというのが、準天頂衛星です。
そのために、赤道上空の静止軌道を傾けて日本上空を通るようにし、さらに、日本上空での滞空時間を延ばすために軌道を円形ではなく楕円軌道にします。さらに、一つが日本上空から離れても別の衛星が日本上空に来るように複数個を組み合わせて使うことになります。現在は1個だけで、試験運用を始めたところです。
今後この報道があったら、何がなされているのか分かるようになったと思います。
注目して下さい。
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