いぼむしり
2010.10.4付 朝日俳壇より
目の玉の中に顔ありいぼむしり:(枚方市)山岡冬岳
長谷川櫂評:目の玉の中に顔がある。カマキリといえど、そんな顔はしていないのだが、そういえばそんな顔である、言葉の幻術。
いや、全然知りませんでしたね、カマキリのことを「いぼむしり」とは。
いぼ‐むしり【疣毟り】
(この虫でいぼを撫でれば、なくなるとの俗説から) カマキリの異称。いぼうじり。
いぼ‐め【疣目】[広辞苑第五版]
「蟷螂」が秋の季語ですから、一応「いぼむしり」も秋の季語ということになるんでしょう。
不自由ですね。
5月頃、生まれたてのカマキリの可愛さは詠めませんか。
夏の食欲旺盛で圧倒的な力を誇示するカマキリは詠めませんか。
産卵を済ませ、乏しい餌の虫を衰えた力で狩る、冬に入ろうというカマキリは詠めませんか。
「季違(たが)い」ですか。
カマキリの顔は複眼が大きい。「幻術」ということでもないですよ。「いぼむしり」がカマキリであることが分かってしまえば、そう難解な句ではない。
あの、ギョロっとした目と目が合ってしまった。何か用か?とでも言いたげなあの目つき。いえいえ、失礼しました、と言いたくなります。
カマキリの目は激しい。
ところで、人間界では3Dとかいって、両眼視差を利用した立体視がはやろうとしてますね。
実はカマキリは、あの二つの大きな複眼で「立体視」をしているのです。両眼視差を利用してね。
エサまでの距離を正確に測って、カマの到達距離内に入ったかどうか視覚で判断しているのです。
ときどき、カマキリがエサの昆虫のほうを見ながら、体を左右に振っていることがありますね。あれは、両眼立体視だけでは距離が巧く測れない時に、目の位置を左右にずらして、視差を作って距離を測っているのです。
カマキリの目の前にプリズムをうまく置いて、両眼視差を狂わせるんですね。そうすると、そのずれてしまった位置に向かってカマを伸ばすんですよ。
カマキリ用のプリズム眼鏡なんか作った研究者もいるんですねぇ。すごいですね。何の役に立つかと聞かれても、まあ、何の役にも立たないけれど、人間の好奇心の奥深さの方にも興奮しますね。カマキリの視界にもわくわくしますけれど。
{カマキリさん用の3Dテレビでも作りますかね。実用的だなぁ。役に立つ。}
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