ハヤブサ
2010.10.11付 朝日歌壇より
炎天下列に二時間連なりて三秒もらひ「ハヤブサ」に会ふ:(福島市)二宮宏
へそ曲がりなものですから、世間があまりに騒ぐと白けるたちです。
「はやぶさ」に対してあまりにもエモーショナルな騒ぎが大きくなり過ぎた。
イトカワへの「着陸」などをリアルタイムで見つめてきたものとしては、内容を知らぬままの大騒ぎには少々白けてしまいました。最近の風潮として、中味に対してではなく、「騒ぎを求めて騒ぎのために騒ぐ」というのが多すぎます。何でもいいから、どこかに「騒ぎ」はないかなぁ、というギラギラした視線だらけでしょう。つまらないことですね。
MUSES-Cという名前で出発して、小惑星イトカワへ「舞い下り」て着陸後瞬時に離陸する姿を「はやぶさ」に似ているとして命名されたのでした。
平仮名で「はやぶさ」と書いてあげて下さい。動物名のハヤブサではないので。
◆地球帰還後の出版物も、エモーショナルなものが多くて閉口しましたが、ここにきてとても良い本が出ています。{広告ではありませんが}ご紹介します。
NHK出版 生活人新書330
「小惑星探査機 はやぶさ物語」、的川泰宣 著、2010.10.10第一刷発行、740円
的川さんはJAXA名誉教授。温かい人柄のかたです。将来の宇宙研究を担う子どもたちへの教育にも力を注いでいらっしゃいます。
「はやぶさ」のプロジェクトマネージャー川口淳一郎さんの先輩として、JAXAの内部にあって、プロジェクトの詳細を知り抜いた工学者が、激しい情動を避けながら詳しい解説をしていらっしゃいます。でも、無味乾燥とは無縁の、人間的な温かみに包まれた本になっています。個人的にお勧めの一冊です。
この本の12~13ページから引用します。
・・・
チームを率いる川口淳一郎プロジェクトマネージャーが決断しました。
「最後に、はやぶさくんに地球を見せてやりたい」と。
・・・
最後に川口プロジェクトマネージャーが非常に粋なことをして、「はやぶさ」の姿勢制御をちょっとだけして、「はやぶさ」に最後に地球の姿を見せ、写真を撮りました。
川口プロジェクトマネージャーが「はやぶさ」に「くん」をつけて呼ぶのは、このときが初めてのことでした。彼はとてもクールな男で、それまで、そういう面を見せたことがありませんでした。ですから、まわりの人たちもびっくりしていました。
・・・
アラビア半島の上空約二万キロから撮像をはじめ、どんどん地球に近づきながら、「はやぶさ」は七~八枚の写真を撮りました。最後の一枚に地球が写っていました。
・・・
◆日経サイエンス.2010.9月号に、川口淳一郎さんが「はやぶさ」60億キロの旅、という記事を書いておられます。淡々と分かりやすく「はやぶさ」プロジェクトの全容をかいておられます。淡々とした文章の中に一カ所こんな文を読みました。
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カプセル分離後、「はやぶさ」は地球の撮影を試みた。姿勢の関係でカラーカメラは使えずモノクロだった。何枚か撮影した最後の一枚に地球が写っていた。その画像を見た時、視界が涙で曇った。
・・・
淡々とした工学者の文章だけに、際立ってこの一語が心を刺し貫きます。読んでいて思わず「ああ」とため息をついたことでした。
川口さんの思い入れの深さにうたれます。冷静で物静かな方だからこそなお、その垣間見えたお心にうたれました。
私は、この「はやぶさ」が撮影した地球の写真と、もう一枚が大好きです。
地平線に銀河(天の川)が立ち、その前を横切っていく「はやぶさ」の最後の輝きの写真。
です。
宇宙、太陽系、地球を一瞬にして一枚に凝縮した写真でした。
大切にしています。
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