« 時速100kmの振り子 | トップページ | 本は力持ち »

2010年9月17日 (金)

高速スピンの謎

◆前の記事に続いて、大科学実験の「クリティサイズ」
{批判するというと、悪く言う、貶める、という感じが日本語ではつきまといます。私はNHKの技術力を高く評価していますし、大科学実験という番組も同様に高く評価しているものです。ただ、教育用に最適な形になっているかどうかという点で疑問を感じることもありますので、対象を分析し、解析し、問題点があるとすればそれはどういう点か、というようなことを、明白にしたい、と思うのです。その作業をクリティサイズと表現しました。価値観抜き、冷徹な「眼」に徹したいと思うのです。}

実験12「高速スピンの謎」:華麗に宙を舞う空中バレエ。よく見ると、手や足を広げたときには回転が遅くなり、縮めると回転が速くなっている。どのような原理が働いているのだろうか?
初回放送: 2010年07月21日

について。

◆これは「角運動量の保存」の実験でした。
サーカスでぶら下がって回転する人が、体を縮めると回転が速くなる、ということを大規模にやろうとしたのです。
大きな回転する円盤の縁に座っていた4人が、ロープをよじ登って、上の方に集まっていくと回転が速くなるという実験に仕立ててありました。

規模を大きくすればいいというものではないのですが、このごろ、この番組、大規模化ばかり追求しているように思えます。

大事なのことは
1:外力が働いていないことが明白な形で質量を移動する。
2:質量移動は回転円板上で行われるべきである。
3:質量分布が周辺か中央かが明瞭である。

これらの点が、番組では不明瞭でした。

●円盤を吊るしているロープの吊り下げ点にむかって斜めにロープを「登って」いったのですね。
すでに分かっている人には、これで外力が働いていないことが分かりますが、初心者には、人がロープをよじ登ることが内力のみによるということは明白ではないでしょう。
ロープを手繰る力の収支関係が見えにくいからです。
●また、人が登りながら回転の中央に集まっていますので、質量分布が中央に移ったのだということが不明瞭になっています。高くなった、ということの影響はないのかな?と考えさせてしまうでしょう。
無用の要素を混入させたために混乱を招きます。

●大きな円盤を吊して回転させる。これはいい。
円盤上に例えばレールが敷いてある。そこに摩擦の少ない椅子が円盤の端に向かい合わせで二つ乗っている。
椅子に人が座った状態で円盤を回転させる。
二人は一本の軽くて丈夫なロープを持っており、実験開始後、ロープを互いに引く。
すると、ロープの張力を介して二人の座った椅子はレール上を中心方向に移動していく。
この時、円盤の回転速度は速くなっていく。

こんな実験にするべきでした。
質量は回転面の内にある。
ロープを介して引き合えば、外とは無関係に内部の力だけで移動していることが明瞭。
です。

あるいは逆向きに、
●回転円板の中心部に、相当に重いおもりを二つ、押し縮めたばねを挟んで、強い紐で結んでおく。
円盤を回転させ始めてから、何らかの時限装置で紐を切る。
すると、二つのおもりはバネの力で両側へ押し出され、レール上を縁に向かって転がっていって、質量分布が変わる。
円盤の回転速度が小さくなる。

こういう構成でもいいですね。
角運動量保存、なんて言葉は要らないわけで、出来事の本質部分を見ただけで分かるようにすべきでした。

スケートのスピンを使わなかった、というのは、氷と靴のエッジの摩擦が「外力」のように見えるからでしょうか。
規模を大きくしたかっただけでしょうか。
どっちでもいいですが、本質のえぐり方が「鈍かった」ですね。

ただ実験規模を大きくすればいいというものではないはずなのですが。
ちょっと思い違いしていないかなぁ。

« 時速100kmの振り子 | トップページ | 本は力持ち »

理科おじさん」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 高速スピンの謎:

« 時速100kmの振り子 | トップページ | 本は力持ち »

2023年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
無料ブログはココログ