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2010年9月 1日 (水)

ケロイド

2010.8.30付 朝日歌壇より
ケロイドの項(うなじ)は汗をかかざりし被曝の疵も古稀を迎へぬ:(高石市)木本康雄
 馬場あき子 評:被曝のケロイドを項にもっている。ケロイドの部分は汗をかかない。たぶん人にもいわず古稀を迎えられたのだろう。辛い歳月であった。

さて、実際がどうだったのか、分からないことですが、私には必ずしも「人にもいわず古稀を迎えられたのだろう」とは思いません。
想像の範囲を超えませんが、その被曝の疵を原点にして原爆を、戦争を、語り続けるという選択だってあり得ますでしょ。
そのようにして、共に被曝を語った「語り部たるケロイド」とともに、古稀を迎えたよなぁ、という感慨であってもおかしくはないでしょ。
辛い歳月であったことはもちろんです。でも、その辛さとどう対峙したのか、そのことに想像力を及ぼす言葉を語るとき、言葉は語り手の意識をあらわにするのです。
私は、自分の障害をさらして、障害と共に生き、生徒たちに語り続けました。
そういう生き方をしたために、作者が原爆の語り部であってもおかしくはない、と想像してしまうわけです。
「人にもいわず」という評を書かれる馬場氏は、もし、私や作者のような状況に置かれた時、障害を、ケロイドを隠して生きるんだろうな、と思わせるわけです。

言葉とは恐ろしいものです。


国連本部で開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議で谷口稜曄(すみてる)さん(81)は(2010年5月8日 朝日新聞)

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原爆で背中に大やけどを負った17歳当時の自分の写真を示しながら、「核兵器がなくなるのを見届けなければ、安心して死んでいけません」と訴えた。
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 谷口さんは、16のNGO代表者の3番目に登壇。演説の大部分を通訳の代読に任せた。長崎市の爆心地から1.8キロのところで自転車で走っていて被爆し、背中を焼かれて1年9カ月間、腹ばいで身動きできなかったこと、現在まで手術を繰り返していることなどが英語で語られた。
 その間、赤く焼けただれた背中の写真を、微動だにせず高く掲げ続けた。演説は「被爆者は全身に原爆の呪うべきつめ跡を抱えたまま、苦しみに耐えて生きている」とつづられ、「私はモルモットではない。もちろん見せ物でもない。でも、私の姿を見てしまったあなたたちは、どうか目をそらさないでみてほしい」と訴えた。
 終盤、日本語で「人間が人間として生きていくためには地球上に一発たりとも核兵器を残してはならない。私を最後の被爆者に」と呼びかけた。12分余りに及んだ演説を「ノーモア・ヒロシマ ノーモア・ナガサキ ノーモア・ヒバクシャ」と締めくくると、会場を埋めた約300人が立ち上がり、しばらく拍手が鳴りやまなかった。
 谷口さんにとって「これで最後」と位置づけた渡米だった。成田を離陸し、ニューヨークまで半日余。背中には今もケロイドと手術痕が多数残るうえ、皮膚が薄く裂けやすいため、機内のいすに背をもたせかけることができない。高齢でもあり体力的にきついが、ちゅうちょはなかった。演説原稿は、出発前に準備した。「いつも修学旅行生に話しているのを、時間に合わせて短くしただけ」。半世紀以上にわたって続けてきた真実の訴えだからだ。
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今年の8月5日

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 潘基文事務総長は長崎原爆資料館を視察、被爆者6人から直接、当時の惨状や今も続く苦しみなどを聞いた。
 原爆の熱線被害の資料を展示するコーナーでは、爆心地から1.8キロで被爆し背中や左手に大やけどを負った長崎原爆被災者協議会長の谷口稜曄(すみてる)さん(81)が、米軍が当時撮影した真っ赤に焼けただれた自らの背中の写真を前に説明。事務総長は手を取って熱心に聴き入った。健康状態も気遣い、谷口さんは「今も背中からは汗が出ません」と答えていた。
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(定義集)被爆国の道義的責任とは何か 「核の傘」離脱、求めてこそ 大江健三郎(2010年8月17日)から

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 式典に参加する最初の国連事務総長、潘基文(パンギムン)氏は来日してすぐ長崎の原爆資料館で被爆者谷口稜曄(すみてる)さんと対話されました。私がこれまでに見た忘れられない写真のひとつ、原爆に背中を焼かれた少年のモデル、谷口氏は、今年五月の核不拡散条約再検討会議で、あの写真を掲げて演説された。その会場に核保有国の首脳らはいなかった、という記事を読んで、私は五年前、谷口夫人が汗を出せないその背中に毎日薬を塗る習慣なので、外国の旅に出すと気懸(きが)かりだ、といわれていたのを思いました。
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