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2010年8月19日 (木)

蝋燭

 2010.8.18付の朝日新聞夕刊の「水曜アート」という欄で、高島野十郎の「蝋燭」という絵の話がありました。
どんな絵かは、三鷹市美術ギャラリーのサイトで先ずはご覧ください。
http://mitaka.jpn.org/calender/gallery/069.php
大きなサイズでは見られませんが、イメージはお分かりになると思います。

この絵を見て、私の記憶は一挙に教師になった一年目にふっとんだのです。
統廃合で今はもうない、世田谷区立池尻中学校というのが私のキャリアのスタート点です。
教師になった最初の年の冬休みだったと記憶します。
冬休みの宿題というのを出したのですね。もちろん担当教科は理科です。
なんというべきか、かなり「ものすごい」宿題でしたね、今から思えば。
「ろうそく」というのです。
ろうそくの燃焼について理科的なことを調べてきなさい、という宿題ではないのです。

夜、3cmのろうそくに火をつけて、部屋の明かりを消しなさい。
そして、そのろうそくの炎が消えるまで、ひたすら眺めなさい。その何分かの間に君の心に浮かんで消えていったものを捕まえて、文章に表現して提出しなさい、というのです。

先ずはろうそくの炎の構造が見えるでしょう。青い部分、黄色く輝く部分、先端からはかすかにすすが出るかもしれません。
部屋を閉め切っていても、炎はかすかに揺れることでしょう、なぜだ?
君の心は揺れないか?
ろうが融けていく様子も見えるでしょう。固体のロウの棒の先が融けて液体になってくぼんで溜まる。液体のロウは芯に吸い上げられて燃える。芯も少しずつ燃えて、その燃えカスの形は変わっていく。
ちょっと目をあげてみましょう。
ろうそくの炎って、意外と明るい。部屋の中が照らされている。でも満遍なく明るいのではなく、どこか「光の範囲」のようなものがある。照らされない隅、というものがある。
ろうそくは短くなっていく。
ろうそくの炎がろうそく自身の影を机の上につくる。その影は少しずつ大きくなっていく。
光を発し、周囲を照らすものが、自らの影を作る。影を作らざるを得ない。
輝くものの影とは一体どのようなものか?
もう、ろうが2,3mmしか残っていない。
まさに消えようとするとき、不思議と炎は一度大きく伸びる。
消える直前の大きな炎。

こんなことを、私自身が文章に書いて、宿題の出題プリントに添えたのでした。

変な教師だったでしょうね。でも、生徒は真剣に取り組んでくれて、素晴らしい文章を書いてくれましたっけ。
思えば無茶苦茶な教師だったんですよ。
最初の一歩が、その後のすべてを象徴するんですね。
授業を作るのが楽しくて仕方ない私。
障害者のことを語り続けた私。
その後の教師生活のエッセンスがこの池尻中学校時代に凝縮されていましたね。

昨日の夕刊を開いて、「蝋燭」という絵を見た瞬間に、40年近くもタイムトラベルしてしまいました。
私が生徒に宿題を出すときに、自分でまずろうそくを眺めました。
そのとき、短くなったろうそくに触発された思いが瞬時に復活してしまいました。

あまりに懐かしくて、なかなかに伝わりにくいことだとは思いますが、こんなことを書きたくなってしまいました。

◆ろうそくについては、いろいろエピソードがあるんです。
・同僚の30歳祝いに、小さなケーキを買ってきて、30本のろうそくをぐるっと立てて、準備室でお祝いをしたのですが、30本のろうそくに火をつけると、上昇気流がものすごく強くなって、その上昇気流に引っ張られて、ろうそくの炎はものすごく長くなり、内側に倒れ、30本の炎が一つにまとまったような姿になります。あまりの迫力にドキドキしてしまいました。
・小学生のころ。岩波の科学映画で、密閉できる箱の中にろうそくを立て、反対側に8mmのカメラを置き、火をつけてカメラを回して蓋をし、3回くらいの高さから落として、下で布を張って受ける。自由落下中は無重量になるので、上昇気流が生じない。そのため、ろうそくの炎は「球形」になる、というのを見たのです。すごかった。炎の形がなぜ炎型なのか、理解してしまった。
後に、廃坑になった炭鉱で、自由落下による無重量研究がなされるようになりました。そこで撮影された、ろうそくの炎の「球形燃焼」が教科書のカラーページに載って、感慨深いものがありました。
・化学の授業でも、球形燃焼の話などもしました。
宇宙船の中でマッチを擦ったらどうなるか?というような設問もよく生徒にぶつけました。
空気の強制的な流れはないものとします。
発火はします。でも、無重量なので、対流が起こりません。そうすると新鮮な空気が供給されません。ですから、比較的短い時間で消えてしまうはずなのです。
もちろん、ろうそくに火をつけても同じですね。

いや、気分がものすごく懐古的になりました。私としては珍しいことです。
どうも、失礼いたしました。

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コメント

池尻中学校の検索から偶然に案山子庵のサイトに
たどり着きました。
お元気そうで何よりです。
私は、1974年に池尻中学の2年生でした。
案山子庵に記載のアドレスにメールさせて頂いても
宜しいでしょうか?


どうぞ、どうぞ。検索に引っかかるのも何かの御縁。お待ちしています。
池尻中学の校舎で、理科と美術のコラボ・ワークショップのようなことが行われているようですね。懐かしいことです。

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