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2010年7月13日 (火)

歌友

2010.7.11付 朝日歌壇より
水無月や蠑螈(いもり)・蛞蝓(なめくじ)・蟇(ひきがえる)・蚰蜒(げじげじ)・蜚蠊(ごきぶり)みなわが歌友:(町田市)遅沢真也

この歌も、色々の経緯がありまして、それを知ると意味がよくわかります。
作者は、皮肉をこめて歌っていらっしゃいます。相当に強烈です。

6月14日付の歌壇・俳壇欄のコラムに事は発します。
私の記事でご覧ください。
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-f738.html
「奇麗な風」というタイトルで、私が文句を言っています。記事そのものは6月16日付で書いています。

次いで、6月21日付の朝日新聞・天声人語欄に「夏の長いたそがれ」という文章が載ります。(太字は筆者による)

夏の長いたそがれ
 お天気にもよりけりだが、この季節の黄昏(たそがれ)どきはずいぶん長い。夏至のきょう、東京だと4時25分に昇った太陽が7時ちょうどに沈む。〈夕刊のあとにゆふぐれ立葵(たちあおい)〉友岡子郷。日没までの長い明るさには、どこか夏らしい開放感がある。
 タチアオイは梅雨どきの花だ。今の時期、主役がアジサイなら、この花は気っぷのいい脇役の趣がある。茎はまっすぐ大人の胸ほどに伸び、下の方から薄紅や紫に咲き始める。日に日に咲き昇り、一番上が開くころ梅雨が明けるとされる。
 とはいえ、先はまだ長い。天気予報を眺めれば、青い傘マークが続いて、しばらくは素潜りで水の中をゆく気分だ。住宅街を歩くと湿気にのってクチナシの香が流れてくる。こちらは少し陰のある、美しき準主役といったところか。
 「六月は恵まれない月」だと俳人の今井千鶴子さんが小紙に寄せていた。まず祝祭休日がない。食べ物はいたむ。雨が続いて、歳時記を繰れば螻蛄(けら)・蛞蝓(なめくじ)・蚯蚓(みみず)・蛭(ひる)・蚰蜒(げじげじ)……など陰鬱(いんうつ)な生き物がずらり並ぶ、と。そう言うご自身、6月の生まれなのだそうだ。
 言われて眺め直すと、できれば遠慮したい生き物を表す漢字は、迫力満点だ。〈蛞蝓(なめくじ)といふ字どこやら動き出す〉後藤比奈夫。だが、やせ我慢して言えば、なかなか豪勢な生物多様性ぶりでもある。煙る雨の奥の、盛んな生命を思ってみる。
 黄昏どきに話を戻せば、「梅雨の夕晴れ」は美しい。雲で暗かった空が、夕刻に明るさを増すときなど、どこか浮き立つ風情がある。天も地も、ともに多彩な「水の月」である。

さらに続きがあって、7月4日付の天声人語にまた登場。

虫偏の生き物たち
 人は蛇を怖がるか、蜘蛛(くも)を怖がるか、どちらかだということを劇作家の故・木下順二さんが書いていた。脚のあるものとないもの、どちらが苦手か、という二分法だろう。ご自身は蛇なら平気だが、大きな蜘蛛を見ると総毛立ったらしい。
 「蜘蛛」という字を書いただけで、体がざわざわしたそうだ。思えば「虫偏」の漢字は不遇である。先の小欄で、蛞蝓(なめくじ)や蚯蚓(みみず)といった虫偏を並べたら、書きながら字づらの“迫力”にたじろがされた。だが、「虫たちも生きているんです」という優しい便りをいくつか頂戴(ちょうだい)した。
 「虫」の字はもともと、ヘビの象形なのだという。柔らかい篆書(てんしょ)体の字を見ると、なるほどヘビがくねる姿に似ている。爬虫類(はちゅうるい)を元祖に、両生類から昆虫、その他大勢も表して、虫偏は生き物の一大勢力をなす。
 ルナールの『博物誌』にも虫偏が色々登場する。蛇を天敵にする蛙(かえる)の項もある。「睡蓮(すいれん)の広い葉の上に、青銅の文鎮のようにかしこまっている」などと、あの神妙な思索顔を描いていて楽しい。
 だが近年、その蛙族の受難がよく伝えられる。開発や農薬に追われ、感染症にも脅かされている。先日は北九州市の川沿いで片脚のない蛙が大量に見つかった。
 原因は不明という。災いの発端が、ささいな異変として表れることもあるから気味が悪い。ありふれた虫偏の生き物たちが、当たり前に周りにいる尊さを、いま一度胸に刻みたい。〈小蟻(あり)どもあかき蚯蚓のなきがらを日に二尺ほど曳(ひ)きて日暮れぬ〉啄木。わが命につらなる、小さきものたちの営みである。

というわけでした。
今井氏も天声人語子も、私に言わせれば、物事に貼り付けられた「レッテル」でものを語っていますね。
実際に、レッテルの向こう側に「生きている命」を見ていない。
俳人といって、自然には親しく、細やかな観察眼をもっていらっしゃることになっている方が、レッテルで命を語ってはいけないなぁ。まあ、季語というのは最大級のレッテルではありますが。

こんな経緯を踏んだうえで、もう一回冒頭の歌をお読みください。
水無月や蠑螈(いもり)・蛞蝓(なめくじ)・蟇(ひきがえる)・蚰蜒(げじげじ)・蜚蠊(ごきぶり)みなわが歌友
おみごとでしょ。

今井さんは、イモリとヤモリは区別しておられるだろうか?ゲジゲジという語で、おそらく、ムカデ・ヤスデ・ゲジをいっしょくたにしてるのではないだろうか?と疑念をもつものです。

生き物をレッテルで見ないでください。生きる姿を見てください。

◆ところで、気になることがひとつ。
冒頭の歌の作者のお名前、「遅沢真也」氏。
私のが中学高校時代を送った学校の英語の先生に同姓同名の方がおられました。
10代中ごろだった私たちから20歳上として、今80代。ありうるよなぁ。
ひょっとしてこの歌、先生が意地を見せて下さっているのではないか、とすれば実にうれしいことだ、とそんな思いが頭をよぎります。

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