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2010年6月17日 (木)

はやぶさ帰還

●「はやぶさ」が帰還して、しばらくなります。今度は「イカロス」が帆の展開に成功したというニュースが入ってきて、これも嬉しい限りです。私たち夫婦の名前も刻まれたプレートが帆の先端部の「おもり」の中に入っており、遠心力で帆を張るときに役だったはずです。これからは、太陽光を受けながら太陽系の旅に出ます。想像力がいたく刺激されます。嬉しいな。
ところで、「イカロス」って単に神話の「イカロス」かと思っていましたらこういう略語でもあるんですね。
Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun

●さて、気分的に落ち着いてきたところで、「はやぶさ」について、理科おじさんが見るとこんなこともありますよ、という記事を書こうと思います。JAXAのサイトの方が絶対に詳しいのですが、元理科教師の目から、こんなことを考えました、というご報告です。

●「はやぶさ」のイトカワまでの道のり、イトカワからの帰還の道のりについては、JAXAの図をここに引用してしまう手もあるのですが、それはやっぱりまずいかな。で、下のページを読んで下さい。分かりやすい図があります。
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/scenario.shtml

●では、思いつくままに

◆「はやぶさ」の記録
2003.5.9     打ち上げ
2004.5.19    地球スウィング・バイ
   地球に約3700kmまで近づいて、加速しイトカワの軌道に接近
2005.9.12    イトカワ到着
2007.春         イトカワ出発
2010.6.13夜 地球帰還

◆いくつかの計算など
1:太陽を回る地球の公転軌道は約1億5000万kmです。
 2π×半径で軌道の長さが出ます。そうすると地球軌道1周は約9億kmです。
 地球を離れて人工惑星となった「はやぶさ」はほぼ一周して地球に接近しました。
 そこで地球のそばを通過することによって、地球に振り回してもらってエネルギーをもらいました。これがスウィング・バイ。
 もちろんエネルギーの保存は成立しているのですから、「はやぶさ」のエネルギーが単独で増加したのではありません。地球はその分のエネルギーを失っています。ただ、地球にとってはあまりにも小さなエネルギーロスですから完全無視できます。
 (幼い子の両手をもってくるくる振り回します。体重のあるお父さんは楽々これができます。でも、子が成長すると、そうはいかなくなります。振り回す方も逆に振り回されますね。それと同じことです。)
 さて、スウィング・バイでエネルギーをもらうと、軌道が外へ大きくなります。これによってイトカワの軌道へと接近したわけです。
 そうして更に1周してイトカワに接近しました。で、地球軌道2周分なら18億kmですが、外側の軌道に移りましたから、約20億kmを旅して、打ち上げから2年でイトカワに到着したわけです。

2:地球軌道半径=1億5000万kmを、地球の直径=6400kmに縮める比で、500mのイトカワを縮めてみましょう。
そうすると、イトカワは2.1cmになります。(計算省略)。

地球の上の、たった2cmの石ころを捜すという仕事と同じことになります。
気の遠くなるような仕事ですね。

「カプセルが見つかった場所は落下予想地点から1キロほどしかずれていなかった。」

という話です。
想像を絶するほどのピンポイントの仕事を達成したということが分かるでしょう。
イトカワを見つけて着陸し、地球上の人間に危険を及ぼさない砂漠の予定地点に、再び同じ程度の正確さで帰ってくる。どちらもとてつもない精度なんですね。
これだけ聞いても、ドキドキします。

3:宇宙速度

「カプセルは分離後、地球の引力で加速され、秒速12キロで大気圏(高度200キロ)に突入する。」
「大気圏突入時、カプセルは最高1万~2万度の空気に包まれる。」
「カプセル表面の材質は、高温と衝撃に強い炭素繊維強化プラスチック(厚さ平均3センチ)。高温になると内層が徐々に溶け、熱を奪いながらガスが発生し、外にもれ出してカプセルを包み込む。その結果、カプセル表面は最高約3000度、内部は50度以下に抑えられる。」
「はやぶさは米シャトルの1.5倍の速度で再突入しており、耐熱材の状況には新型の有人宇宙船を開発している米航空宇宙局(NASA)も興味を示している。」
「一方、米航空宇宙局(NASA)は「はやぶさ」が秒速約12.2キロ(時速約4万4千キロ)で大気圏に再突入する様子の想像図を公表した。本体と分離したカプセルが二つ並んで流れ星のように見えると考えられる。」
「NASAは飛行機で上空1万2千メートルから中継する。宇宙航空研究開発機構とともに小惑星「イトカワ」の砂が入っている可能性のあるカプセルを撮影する。」
「NASA、「はやぶさ」の大気圏突入を観測
 米航空宇宙局(NASA)は13日夜、日本の小惑星探査機「はやぶさ」の大気圏への突入を、大型ジェット機で観測する。
 試料を収めたカプセルが、大気との摩擦で熱くなり、光を放って落下していく様子から、温度などを推定。将来、火星などへ向かう有人探査船の設計に役立てる。
 地球の重力圏を一度離れた探査機が戻って来るのは、2006年に彗星(すいせい)のちりを持ち帰ってきた米国の「スターダスト」に次いで、はやぶさが2機目。突入時の速度は秒速12キロ・メートル以上に達し、低軌道を周回する米スペースシャトルや露宇宙船ソユーズより速い。
 このため、カプセルの周囲の空気は1万~2万度になるとみられている。今回の観測で、カプセル底面の断熱材などがどう温度変化をするのか分かれば、火星探査船などの設計に貴重なデータをもたらすという。
(2010年6月11日19時13分  読売新聞)」

↑はやぶさが地球大気圏に突入する時の速さ関係を抜粋してみました。

・突入速度は約12km/s
・この速さは、スペースシャトルやソユーズより速く、約1.5倍である。
こういうことが分かりますね。
そうすると、シャトルやソユーズは約8km/sのようです。
この数字の意味がお分かりでしょうか。

シャトルやソユーズはもちろん、国際宇宙ステーションも含めて、全部「人工衛星」です。
衛星というのは「地球を回る物体」ということです。

地表面で、野球投手が球を投げて約150km/hですね。この速度では地面に落ちます。
投げ出す速度を速くすると、遠くまで飛びます。
どんどん、どんどん速くすると、落ちて落ちて、落ち切れないうちに地球を一周して帰ってくるようになります。
この速さを「第一宇宙速度」といい、計算すると7.9km/sとなります。(計算は難しくないですが省略)
これは地表で投げて、落ちなくなる速度ですので、上空100kmとかいう桁の高さを回る人工衛星の場合はまた少し変わります。
でも、人工衛星ならどれでも約8km/s程度と理解して下さい。
上に引用した記事から、シャトルやソユーズの速さが約8km/sと分かりましたが、こういうことなのですね。

人工衛星が大気に入るときの速さはこのくらいです。

さて、「はやぶさ」は人工衛星ではありません。地球を周回していたのではありませんから。
「はやぶさ」は人工惑星です。太陽を回ったのです。
地球の重力を振り切って、人工惑星になるには、最低でも11.2km/sの速さが必要です。
人工惑星は人工衛星より一段レベルの高い速さをもつのです。
これが「第二宇宙速度」というものです。(第一宇宙速度の(√2)倍になります。)
「はやぶさ」がイトカワへ到着し、仕事をして地球へ帰還してきます。ということは、地球への接近速度も第二宇宙速度なんですね。
最低でも11.2km/sといいました。地球より遠い軌道からの落ちてくるという帰還ですから、もう少し速くなります。で、約12km/s(12.2km/sという数字も出ていますね)で地球へ突入してくるわけです。

第二宇宙速度で地球大気へ突入してくるのを、じっくり観測できるのはまれな機会です。ですから、NASAが強い関心を抱くわけですね。
有人火星探査をした場合の宇宙船の帰還などについての参考データも取れるかもしれないということですね。

・もしこの宇宙速度の計算に興味がおありならリクエストを頂ければ、お示しできます。そう難しいものじゃない。高校物理の範囲で十分解けますよ。

4:さて、速さというと、私達には自動車の「時速」が身近です。そこで、新聞記事では「はやぶさ」の大気圏突入速度を「秒速約12.2キロ(時速約4万4千キロ)」と時速に換算してくれていますが、大きすぎてかえって分かりにくいですね。秒速で感じられるようにしましょう。
日常生活の速さは秒速で「メートル単位」、宇宙の話では秒速で「キロメートル単位」、1000倍の開きがあるということです。

1秒で1m進む=1m/s なら
1時間=3600秒で3600m進みますね。3600m=3.6kmですから
1m/s=3.6km/h なのです。
3600倍して1000で割った、ということです。

m/sの値を3.6倍すれば時速(km/h)になります
12.2km/s=12200m/s  これを3.6倍すると  43920≒4万4千km/h  ですね。

◆野口さんがロシアのソユーズで国際宇宙ステーションから帰還しましたが、「はやぶさ」は、あの突入速度の1.5倍で大気圏に突入し、燃え尽きました。テレビでご覧になった通りです。
そして、回収されたカプセルの映像もテレビで見ました。実に美しい。なんだか、イメージの中では傷だらけで汚れたカプセルを想像していましたが、機械的な傷も、熱による損傷もない、美しい姿でした。(感動しちゃった。)

ここまでで、百点満点を超えましたよね。これで、小惑星の砂でも入っていたら、百点満点の千点あげちゃう。(元教師らしくないか。)

日本へ持ち帰られるカプセルから、またさらに新しい情報が得られることでしょう。落ち着いて待つことにしましょう。

◆オマケ
 宇宙空間での「ランデブー」というのは地上での出来事とは全然違うということを一言。
 国際宇宙ステーション(ISS)へ日本の補給船がランデブーして、技術の高さが確証されましたが、あれ、どういう風にご覧になりました?

ISSと同じ軌道に入って、ISSの真後ろについて、それから少し速度をあげて追いつけばいい、と思いませんか?
高速道路でなら、ある自動車の後ろを走っていて、速度をあげれば前の車に追いつきます。
ところが、前を行く宇宙船の後ろに入って、速度をあげようとロケットを噴射しても、追いつけないんですよ!
軌道が上へあがってしまうのですね。
速度をあげようと噴射すると、確かにエネルギーが増えますが、そうすると位置エネルギーが増加してしまうのです。で、軌道が変わってしまうのですね。
地上の感覚で操縦したらダメなんです。

「はやぶさ」がイトカワとランデブー状態に入って、接地、着陸する、というときも同じような状況があるのです。
で、「はやぶさ」は自律的な能力を持ったロボットですから、自分でこの操縦法によって自分をコントロールしたのです。(ここでもトラブルはあったのですが)。

管制室では「はやぶさ」を「支援する」という気持ちが強かったでしょうね。
このあたりにも、「はやぶさ」への感情移入が起こる原因があるのでした。

火星探査ロボットもやはり自律行動ができますので、感情移入しやすいですね。「けなげだ」と思ってしまいます。

書きたい事は尽きないのですが、このあたりで「とめます」。
なんかあったら、また書きます。

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