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2010年3月10日 (水)

アリ歩行

2010.3.8付 朝日歌壇より
アリ歩行まず左足二番目が動くを見つけた熊谷守一:(福島市)澤正宏
 高野公彦 評:偉大な画家の、物を凝視する力に驚嘆する歌。

この話、私が知ったのは2005年のことです。朝日新聞の夕刊にアーサー・ビナードさんが「日々の非常口」というエッセイを連載していました。(このエッセイ、現在は新潮文庫で読めます。去年2009年の8月に発行になっています。新潮文庫 ひ 31 1 です。)

[日々の非常口] アーサー・ビナード:アリのまま(2005/06/09、朝日新聞)
(前略)古今東西の画家の中で、アリを描くことにおいて熊谷守一の右に出る者はいないだろう。彼いわく「地面に頬杖つきながら、蟻の歩き方を幾年もみていてわかったんですが、蟻は左の二番目の足から歩き出すんです」。その文章を読んでから、ぼくは機会あるごとにアリの最初の一歩を確かめようと目をこらしてきた。が、確信が持てず、とうとうテキサス州立大学に問い合わせることにした。というのは、幼なじみがそこで昆虫の研究をしているからだ。
 「蟻って、ひょっとしたら左の二番目の足から歩き出す?」と聞くと、「鋭い!」と返ってきた。幼なじみいわく「足の数に関係なく、いかにして安定を保ちながら移動するかが、生物の共通課題だ。昆虫の場合はその安定が、三脚の原理に基づいている。三本の足を動かし、あとの三本は止め、それを交互に繰り返して歩行する。左側の真ん中の足と、右側の前足と後ろ足で踏み出すときは、右の真ん中と左の前と後ろは、じっと三脚をなす。足の動きに関して、三本が同時だというふうに考えられているが、安定を重んじて片方の二本が、反対側の一本より微妙に遅れることもありうる。また、アリたちに利き足がないとは限らず、個体の問題なのか、種類によるのか・・・・・・」。
 熊谷守一が地面に頬杖をついたとき、最初に左の肘をついたか、右の肘だったのか。

ね、こんな文章を読んで嬉しくなって、手入力で私の個人データベースに入力してありました。

まったくねぇ。私にはまだ見えません。修業が足らない。
こんな記事もあったんですよ。

「豆に蟻」熊谷守一(2008/03/05 朝日新聞)
なぜアリを描くのか
(中略)
 理由の一端は明白だ。熊谷守一は96歳のとき、「(自宅の)正門から外へは、この三十年間出たことはないんです」と話している。東京都豊島区千早の自宅からほとんど外出しなかったのだから、題材が身近なものになるのも、無理はない。
 では、外の世界に全く関心がなかったのだろうか。
 まるで逆だろう。「石ころひとつ、紙くずひとつでも見ていると、まったくあきることがありません」と語り、アリも地面にほおづえをついて見たという。
 身近な昆虫、花から軒先に見える月まで、何でもお面白いものとして見る才能を備えていた。
(中略)
 ③観察をもとに、熊谷は「蟻は左の二番目の足から歩きだすんです」と語っている。

熊谷さんはどうも、玄関を出ると、いろいろ見たいものが次々に現れて、門までたどり着けなかったらしいのです。すごいですねぇ。

私は夏場、虫の盛りになると、玄関から門まで10歩足らずの距離を歩くのに、30分くらいかかります。「虫雪崩」にであって遭難しそうだ、帰ってこられなくなるかもしれない、と妻と笑い合っています。

ちなみに、2009.6.22の朝日歌壇には下のような歌がありました
モリカズの描く白猫・白仔猫・牝猫のその単純や良し:(平塚市)河野伊佐央
 佐佐木幸綱 評:「モリカズ」は洋画家。熊谷守一。

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