地震のマグニチュードとエネルギー
◆今年はハイチ、チリと大きな地震が続いています。
新聞記事の中に、マグニチュードとエネルギーの関係について言及している部分を散見します。
2010.2.28
・南米チリをマグニチュード(M)8.8の大地震が襲った。
・世紀前のチリ地震はマグニチュード(M)9.5
・今回の地震のエネルギーは、前回のチリ地震の10分の1以下とみられるが・・・2010.3.1
・今回の地震の規模はマグニチュード(M)8.8。阪神大震災よりはるかに大きいとはいえ、50年前のチリ地震のM9.5に比べてエネルギーは約10分の1程度だった。
・Mが0.2上がれば地震のエネルギーは約2倍になる。
◆私たちは普通、何かの量のスケールを見ると、「比例」的に見たくなります。
グラフに表したときに、グラフの原点を通れば正比例ですが、正比例でなくても、直線的なグラフのイメージが最もポピュラーだと思います。つまり、横軸の量の等間隔の変化に対して、縦軸の量も等間隔で変化しているように感じます。
ところが、上にあげたように、どうも、地震のマグニチュードとエネルギーの関係は直線的ではないらしい。
新聞などに書いてあれば「そうなんだ」と思うしかありませんが、その仕組みを知っておいてもいいと思うのです。その上で、マスコミにあらわれる数字をみれば、ただ何も分からずに信じ込むよりはよいでしょう。
そのお手伝いをしたいと思います。
◆2010年版理科年表の地学部134(700)ページには
4.地震の規模とエネルギーの関係(Gutenberg-Richter)
logE = 4.8 + 1.5M
ただし、E:地震波として出されたエネルギー(単位はJ)
こういう記述があります。
ここで「log」というのは常用対数というものです。
数学は嫌だなと、お思いでしょう。深入りする必要はありません。
log10=1
log20=1.3
log30=1.5
・・・
log100=2
log200=2.3
log300=2.5
・・・
log1000=3
log2000=3.3
log3000=3.5
・・・
log10000=4
・・・
あれっと思いませんか?
大雑把な話、logの働きは「桁をとりだす」という働きなのです。
おそらく、高校化学で「pH」というものを学んだと思います。水素イオンの濃度が非常に薄い範囲での濃度を議論したいのですが、いっつも、小数点以下5桁も6桁も下から数字が始まるのはうっとうしい。ですから、何桁目から数字が出てくるのか、という小数点以下の桁を示すことにしたのです。そのためにlogが使われています。
logというのはそんなものだ、と簡単に考えておいてください。
{log1}
数学的には上の二つの式は全く同じことを表現しています。
◆ここで、ちょっと一連の式を並べておきますが、片目をつぶっておいてください。まともに見なくていいです。
ここでの①式が理科年表に出ていた式です。
これを、上で数学的に同じですよ、といった形に書きかえると②式になります。
10の右肩の上のカッコを開いて、定数部分はこれからの話にはどうでもいいので、Cという文字にしてしまうと③式になります。
地震1と地震2で、エネルギーとマグニチュードをそれぞれ、E1、M1とE2、M2とすると④式、⑤式になります。
地震2のエネルギーは地震1のエネルギーの何倍かを求めるために、E2をE1で割ります。そうすると⑥式になります。
ここで、かなりのことが分かりますね。
M2-M1=1なら、エネルギーは「10の1.5乗倍」ですね。電卓でストレートに求めてもいいです。
10の1.5乗=31.6
マグニチュードが1大きくなると、エネルギーは約30倍になるんですね。
{1.5というのは3÷2ですから、10の1.5乗=(10の3乗)の平方根=√(1000)=31.6とも求まります。}
いちいち電卓をたたくのは面倒なので、⑦式の形でエクセルに計算させてグラフを作ってみました。ご覧ください。
横軸はマグニチュード(M)の差です。1大きくなるところまでをグラフ化してみました。
縦軸はエネルギー(E)が何倍になるかの数値です。
Mが1増えると、Eは約30倍になる。
Mが0.2増えると、Eが2倍になるのが読み取れますね。記事の「Mが0.2上がれば地震のエネルギーは約2倍になる。」ですね。
Mが0.7増えると、Eが約10倍(11くらいですけれどね)になります。逆にMが0.7少なければエネルギーは約10分の1です。これが、「今回の地震の規模はマグニチュード(M)8.8。阪神大震災よりはるかに大きいとはいえ、50年前のチリ地震のM9.5に比べてエネルギーは約10分の1程度だった」ということです。
「阪神大震災よりはるかに大きい」という部分はどうなっているでしょう。
1995.1.17の阪神大震災のマグニチュードは7.3とされています。
8.8-7.3=1.5
これでは上のグラフからは読み取れませんね。
このグラフを使って下さい。マグニチュードが2増えるとエネルギーは1000倍になります。
横軸のMの差が1.5だと、縦軸の方は150と200の間にありますね。約200倍といってもいいでしょう。
「200倍」なら確かに「はるかに」大きいですね。
◆
1923.9.1の関東大震災がマグニチュード7.9
2008.5.12の四川の大地震がマグニチュード8.1
2010.1.12のハイチの大地震がマグニチュード7.0
とされています。
どの程度のエネルギー量の違いがあるか、グラフを活用して読み取ってみてください。
グラフをうまく使うと色々な情報を読み取ることができます。
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チリ地震のもの凄い破壊力で地球の地軸がずれて一日の時間が短くなった、というニュースがあったのですが本当にそんなことが起きるのでしょうか。また、どうして分かるのでしょうか。ずっと気になっています^^;
投稿: 桔梗 | 2010年3月 9日 (火) 12時45分
いえ、現在の観測レベルに引っかかるほどの大きさではないはずです。
あえて、理論式を作って、その理論で予測して、いずれ、その予測が観測できるようになった時、理論の正しさが証明される、といような状態かな、と思っています。ただ、地球に変形が起きれば当然自転速度に影響が出ること自体は全く自然なことです。
回転モーメントの保存、という大事な法則の現れですから。
地震の波が地球を5周した、という話をブログに書こうかなと思って準備しています。
投稿: かかし | 2010年3月 9日 (火) 13時52分