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2010年3月26日 (金)

バンクーバー

◆バンクーバーで行われていたパラリンピックも終了し、少しほとぼりの冷めたところで、ちょっぴりつぶやきたいと思います。

2010.3.8付の朝日新聞にこんな記事がありました。

[冬の軌跡]集う、バリアフリーの街 バンクーバー冬季パラリンピック、13日開幕
 冬季オリンピックが開かれたカナダ・バンクーバーは「バリアフリーの街」としても知られ、12日(日本時間13日)からは障害者スポーツの祭典・パラリンピックが始まる。大会を心待ちにしている人たちの思いを聞いた。
車いすの前市長――「どこにでも行ける」
 「バンクーバーは世界で一番のバリアフリーの街。車いすさえあれば1人でどこにでも行くことができる」と話すのは、前バンクーバー市長のサム・サリバンさん(50)。
 19歳の時、スキーの事故で首の骨を折った。両手両足がまひし、車いす生活になった。障害者が音楽やスポーツに挑戦するための支援活動を続けながらバンクーバー市議になり、2005年から08年まで市長を務めた。
 06年のトリノ冬季五輪閉会式で、次回開催地の市長として電動車いすに乗って五輪旗を引き継いだ。五輪史上初めての光景に、世界中から4千通近いメールが寄せられ、バリアフリーの街・バンクーバーの象徴的な存在となった。
 「多くの人は市長が障害者だったから街のバリアフリーが進んだと思っているが、事実はその逆。街のバリアフリーが発展していたから私が市長を務めることができた」。市内を走る電車「スカイトレイン」はホームと車両の間に段差がなく、車両内にも車いすスペースを完備する。バスは運転席のボタン一つで折りたたみ式のスロープが下り、レストランやカフェのトイレも車いす対応が法律で定められている。
 今回、パラリンピック大使として大会のアピールに力を注ぐ。「人間はみんな障害を持つ」と語りかける。自分のようにけがをして、突然障害者になる人、年をとって体が不自由になる人……。「障害を特別なことと思わないことが本当のバリアフリー」。このメッセージを世界中に伝えたい。
・・・(後略)

◆この記事を読んで、私の頭の中にもう一つの記事が浮かび、あぁ、そうだったのかぁ、と遅まきながら理解がひらめきました。
 このブログ「かかしさんの窓」で、私は12月21日に、「合理的配慮」という記事を書いています。
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-bf03.html
↑ここです。

 この記事の中で、朝日新聞の読者投稿欄「声」に載った投書を紹介しました。再掲します。

   

障害者に優しい街つくって
  16歳の次女は脳性まひで身体障害者1級、車いすを使用しています。小1の頃から、動く右手の1本2本の指を使いメロディーを弾き、私と連弾でピアノを楽しんでいます。今秋、カナダで開催された「第2回国際障害者ピアノフェスティバル」に参加するためバンクーバーに行ってきました。
 フェスティバル終了後に観光を楽しんだ折、街の様子に感動しました。まず空港から乗るタクシーは、何台かに1台は車いす対応でした。また路線バスは、運転手のボタン一つで、乗降口に折りたたみのスロープが出てきて、すんなり乗降できます。スカイトレインという電車もホームと車両の間のすき間や段差がほとんど無く、係員にスロープを持ってきてもらわなくても乗降できます。対岸に渡るフェリーも同様でした。
 ビルの押し引きドアの脇には車いす利用者のボタンがあり、それを押せば自動でドアが開きます。車いすの娘と移動中、ほとんど人手を借りることなく快適な観光でした。東京の街も税金を無駄遣いせず、このような街にしていただきたいなあ、と思います。

 この投書に登場した街がバンクーバーだったんですね。
 そうなんだ、バンクーバーなんだ、と思わずうなってしまいました。
 うらやましいですね。

 

前市長さんは「車いすさえあれば1人でどこにでも行くことができる」と語り、
 投稿者は「車いすの娘と移動中、ほとんど人手を借りることなく快適な観光でした」とおっしゃっている。

 障害者は実際にバンクーバーでは、自分の意志で、自分の力で、どこへでも行くことができる。
では、健常者には何かメリットがあるのか?
すべての行動の可能性が開かれているということは、健常者にとっても、非常に開放的な、心理的に閉塞感のない街であるはずです。可能性を留保しているということは大事なことなんです。実際にどうするかは別にしてもね。

「自分達には無用だが障害者の『ために』してやっているのだ」ではないのですね。

バンクーバーの前市長さんは、こうもおっしゃっていますね。
「人間はみんな障害を持つ」と語りかける。自分のようにけがをして、突然障害者になる人、年をとって体が不自由になる人……。「障害を特別なことと思わないことが本当のバリアフリー」。このメッセージを世界中に伝えたい。

◆これです。
障害者は大変だから、その大変さを思いやって、少数の障害者のためにわざわざバリアフリー化に金をかけてやるのだ。私たちは差別をなくそうとしているのだ、心広い人間なのだ。

ではなく、みんなが住みやすい街を自分たちみんなで作る。そうなんですよ。

パラリンピックの騒ぎは昔より沈静化してきましたが、マスコミはやたらと「美談」「ものがたり」を欲していることに変わりはない。そういう一過性の騒ぎではなく、地道な「合理的配慮」の深化を望みます。

--------------------------------------------------
2010.3.5付でこんな話が朝日新聞に載っていました。

OMOTESENKE、バンクーバーへ パラリンピック・ノルディック代表を応援
 茶道の表千家が、バンクーバー・パラリンピックのノルディックスキー代表のチームスポンサーになった。茶道と障害者スポーツという異色の組み合わせだが、表千家側は「障害を克服してスポーツに情熱を傾ける人たちに勇気を与えたい」としている。
 スポンサー料は300万円。「Japanese Tea Culture」などと記されたワッペンをユニホームにつけた。スポーツ関係のスポンサーになるのは初めてという。
・・・(後略)

同じ内容の記事が読売にもありました。

 冬季パラリンピック・バンクーバー大会(3月・カナダ)に出場するノルディックスキー距離、バイアスロンの代表選手8人に、茶道表千家がスポンサーとなり、活動費300万円を助成した。選手の姿を見ることで「茶道を志す障害者の方にも、負けずに次の一歩を踏み出してほしい」との願いも込められており、表千家の本格的なスポーツ支援は初めてという。
(中略)
そうした障害を乗り越えてメダルを狙う姿に、左海理事長は胸を打たれ、支援を快諾したという。
(後略)

なんだかずいぶん雰囲気の違う記事になっていました。
朝日の方が「乗り超え神話」が好きなのでしょうか。それにしても「克服」「勇気を与えたい」はいただけませんねぇ。
一番気分の悪いものいいですね。

バンクーバー前市長さんの、「人間はみんな障害を持つ」「障害を特別なことと思わないことが本当のバリアフリー」とは桁はずれに認識のレベルが違いますね。
哀しいことだなぁ。

2010.3.23付 朝日新聞のスポーツ欄にマセソン美季さんがこんなことを書いておられます。

[@バンクーバー]競技の魅力伝わった
 2000年夏季シドニー大会の女子車いすマラソンで優勝した米のジーン・ドリスコル選手は合同記者会見の後、「質の高い質問をしてくれてありがとう。報道のされ方次第で私たちのスポーツの環境もかなり変化します」と言っていたのを思い出した。
 珍しい競技を障害者がしていると報道された当時と違い、今回は競技の面白さや魅力に迫った内容が色々な形で発信されていたように思う。記者室で選手たちの話題で盛り上がっている人たちの存在が、パラリンピックスポーツの明るい未来を感じさせてくれた。
 個人的にはアイススレッジホッケーで、夫のチーム、カナダ代表がメダルを獲得できずに悔しい思いをした。しかし、日本に負けた日の夜に選手と家族が集まった席で「日本チームがメダル争いに絡んできたことで我々のスポーツが更にレベルを上げて面白くなっていくだろう。皆で日本チームの活躍に乾杯しよう」とスポーツマン精神を見せてもらった。国境を超えた友情もかみ締めた。
 私たち家族はこの4年間でかけがえのない友人、家族の存在を認識し、皆で一つの大きな目標にたどり着くまでの努力を経験できた。金メダル以上のモノを得ることができたように思う。(マセソン美季=1998年長野大会金メダリスト)

「質の高い質問をしてくれてありがとう。報道のされ方次第で私たちのスポーツの環境もかなり変化します」
どうも、まだまだ日本では「質の低い」エモーショナルな感動物語が幅を利かせているようですね。
情緒的でべとべとの、「涙と感動の物語」をみんな欲しがっていますね。
感動を味わうのではなく、錯覚でしかない「感動」、それをしている自分への自己愛に酔っているのではないですか?

湿っぽいの嫌いだぁ。
ばっさばっさに乾燥してしまいたい!

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コメント

GoogleのAlertでバンクーバーオリンピックを検索用語として登録しています。昨日届いたAlertに、まったく同感するコメントがありました。私の友だちはパラリンピック、アルペンスキーのスタッフとして日本からやってきていました。その友だちとも話しましたが、まったく同感です。その話の中で、JOC、日本政府の応援が、人的にも金銭的にもとても少ないという話を聞きました。こんな環境の良い街から日本へ戻ったとき、何を感じてしまうんだろうと、ふと思いました。スポーツに賛同する企業、ボランティアが多い国に、日本もなって欲しいです。

左下肢歩行機能損傷の私にも、なにかと「でこぼこ」の多い日本社会です。もっと、滑らかで暮らしやすい社会になるといいなぁ。

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