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2009年10月20日 (火)

海のpH

 2009.10.14の朝日新聞に「日本近海、酸性化進む CO2溶け込み生態系に影響も」という記事がありました。
 この記事では、海の「pH」が低下しているとのことです。

 「紀伊半島沖の北緯30度では、過去26年間に表面海水のpHが約0.04低下していることが分かった。」とあります。
 また「産業革命以降の約200年におけるpHの低下が推定0.1とされる」とか「現在の海水はpHの値が約8.1だが、CO2排出量が中程度で推移してゆくシナリオの場合、今世紀末には今よりpHが0.2低下して7.9程度に、最悪のシナリオでは今より0.4低下して7.7にまで酸性化が進むことが分かった。」

といった記述もなされていました。
普通「正比例」という感覚は誰にでもあります。ところが、pHの場合、正比例感覚でとらえると間違った理解になりますので、ちょっとだけ、お話ししたくなりました。

◆高校の化学で「pH」「水素イオン濃度指数」というのを多くの方が学ばれたと思います。
「指数」というところに注目して下さい。水素イオンの濃度は非常に広範囲にわたって変化するので、濃度の数値をそのまま使ったのでは、煩わしくって仕方ありません。こういうときに科学でよくやる手が、「桁」で表示するということです。数学的には「常用対数」といいますが、要するに「桁」なんです。
 どうせ、とても希薄な水素イオンの濃度を扱いますので、小数点以下かなり下の方の数値を扱わなければなりません。そうすると、常に「小数点以下○○桁目から数値が始まる」ということになります。これは対数をとったときに「マイナスの記号が常につく」ということです。どうせいつでも「小数点以下=マイナス記号」がつくのなら、めんどくさい、やめちゃえということで「マイナス1」をかけておきます。そのようにして、濃度の桁を示す数値をプラスの値で示すのがpHです。
 一応、pHの定義を書くとこうなります。

Ph


 水素イオンの濃度を扱っています。すると、水素イオンが希薄だと、小数点以下の0が増えます。ですから、pHとしては数値が大きくなります。逆に水素イオンが濃くなって1に近づいていくと、小数点以下の0が少なくなりますので、pHの値は小さくなるのです。

 また、桁を示す数値ですから、数値が1減ると、水素イオンの濃度が10倍濃くなります。2減ると、10×10=100倍濃くなります。

 

では、pHの値が「0.04」小さくなったというと、水素イオンの濃度では何倍になったのでしょう?
数学をすることはここでの目的ではないので答えだけ言ってしまうと「10の0.04乗倍」濃くなるのです。

 さて、ウィンドウズの「すべてのプログラム」>「アクセサリ」>「電卓」と進んでください。電卓が表示されたら「表示」メニューから「関数電卓」をクリックすると、びっくりするほどの高級関数電卓が使えるようになります。(必要ならデスクトップあたりにショートカットを作るといつでも好きな時に使えますよ。)

この電卓で「10」「x^y」「0.04」「=」と押していただくと「1.0964781961431850131437136061411」とでます。
こんなにいっぱい数字があっても仕方ない。「1.10」くらいで十分でしょう。

pHの値が0.04低下すると、水素イオンの濃度は1.1倍濃くなるのです。
生物の微妙な活動の中で、1.1倍というのは小さな変化ではありません。
指数が0.04と小さいからといって、大したことはない、とは思わないでください。

産業革命以来の200年では、指数が「0.1」変化しましたから、実際の濃度変化は「10^0.1=1.26」倍です。
0.2の変化なら、1.58倍
0.4の変化なら、2.51倍
水素イオンの濃度が濃くなるのです。

最悪のシナリオの場合、2.5倍も水素イオンが濃くなる、これは辛い。生態系に大きな影響が出るでしょう。海水中のカルシウムイオンを炭酸カルシウムにして殻や構造物を作る生物にとっては大きな痛手になります。

変化は待ったなしです。

Phscale
いちいち計算するのが面倒でしたら、グラフを見てください。
このグラフで横軸は指数の値の変化です。縦軸はその時の水素イオン濃度が何倍変化するかという数値です。「1変化すれば10倍」をフルスケールにしてあります。
グラフは直線ではありません。日常的な正比例感覚ではとらえられないのです。
指数関数といって、始めの方は変化が小さく見えますが、右の方へ行くとぐんぐん大きくなってしまうのです。

◆記事の終わりの方を引用します。

 現在の海水はpHの値が約8.1だが、CO2排出量が中程度で推移してゆくシナリオの場合、今世紀末には今よりpHが0.2低下して7.9程度に、最悪のシナリオでは今より0.4低下して7.7にまで酸性化が進むことが分かった。
 海水のCO2濃度を調節する装置を使って人工的に酸性化させた海水で生物を飼育する実験では、今世紀末の海水では食用のウニや巻き貝などの成長率が2~4割落ちるといったデータがある。
 研究チームは「海水のpHの低下が日本近海でも加速しつつあることが確認できた。いますぐに生物に影響が出るレベルではないが、100年後には日本の沿岸にすむ生物に何らかの影響が出ることになるだろう」としている。
     ◇
 〈海洋の酸性化〉 大気中のCO2が増えると海水のCO2濃度も上昇し、その影響で海水のpHの値が低下する。現在の海水はpHが約8.1の弱アルカリ性だが、酸性化が進むとpHの値が7(中性)に近づく。将来、貝類やサンゴなどの生物は殻や骨格を作りにくくなる恐れがある。人類が大気中に放出するCO2の3割は海が吸収するとされ、世界の150人を超す科学者は今年1月、海洋酸性化に伴う生態系の破壊を警告する宣言を発表した。

無限に大きな海、という気分で、何でも海に捨てたり吸収させたりしてきたのですが、人間活動の規模は、その海にまで影響を与えそうなのです。とんでもないことが起きつつあるようです。

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