褐色細胞
体温の話をなんだか引きずっていて思い出したことを一つ追加。
細胞の中で「エネルギー通貨」として働くATPという分子のことを聞いたことがあると思います。生物の方では、ATPは「高エネルギー結合」を持っていて、その結合を切ると大きなエネルギーが得られるということになっていますが、化学の側から見ると、さほどの高エネルギーではないのでして、水分子の熱運動のエネルギーを上回る、といった程度でしょう。
生徒には「10万円金貨じゃ自動販売機が使えないでしょ、小銭がいる、100円玉が必要」細胞内の「エネルギーの小銭」がATPなんだよ、と話しました。
さて、ATPはミトコンドリアで作られるのですが、水素イオンの濃度差を利用して、濃い方から薄い方へ水素イオンが流れる、その力を利用して「発電機」のような装置を回してATPを合成します。
ところで、ヒトの新生児や冬眠動物では体温を維持するために「褐色細胞」という細胞を持っています。これは脂肪細胞のうちで特にミトコンドリアが多くて鉄イオンの色が濃くなって褐色に見えるものです。
この細胞では、ミトコンドリアはたくさんあるのですが、ATP合成装置を回さずに、水素イオンの濃い側と薄い側を「ショート」させるのです。電気回路のショートはご存じでしょう。本来電気がいろいろな仕事をするはずのところを、ショートさせると光と熱を発生します。
ミトコンドリアでも同じこと。本来ATPを作るはずの装置をショートさせると発熱するのです。
生まれたばかりの赤ちゃんが命を維持するために作った特別な装置です。
生命ってすごいですね。赤ちゃんって、本当に守られているのですね。
(ダイエットに効くかなんていう話もあるようですが、ダメ。大人にはほとんどありません。そんなものに頼るより、ちゃんと体を使えばいいのです!それだけ!)
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