酔ひしれて
2009.10.19付 朝日俳壇より
村中の柿酔ひしれてをりにけり:(入間市)大矢勲
長谷川櫂 評:枝に生ったまま、次第に熟していく村中の柿。「酔ひしれて」と断じたところがよい。てかてかの柿の顔が見えてくる。
「てかてかの柿の顔」ということでしたか。酔っているんですね。
柿とアルコールは縁が深くて。
渋柿を焼酎につけて「渋抜き」。樽柿ですね。
熟しきってチューっと吸い込めるほどになった柿の香り。
「熟柿臭(じゅくししゅう)」って聞いたことありません?
実は、有機化学の方でアセトアルデヒドという物質の匂いを形容する時に必ず「熟柿臭」っていうんですよ。エタノールが酸化されるとアセトアルデヒドになります。お酒を飲むと、体内でエタノールが酸化されて、アセトアルデヒド経由で酢酸へ、更に酸化されて二酸化炭素と水になります。酔いがさめるということは、この酸化が進むということなんですね。
で、飲み過ぎると、翌朝、酸化しきれなかったアセトアルデヒドが体内に残っていて、これが二日酔い。二日酔いのおじさんの吐く息の匂い、あれアセトアルデヒドの匂いなんですね。
頭が痛いのも体内に残ったアセトアルデヒドのせいです。
というような具合で、「柿」ということから、エタノール・酒、がいろいろ連想されます。
そんな知識を仕入れた上で、もう一回、句をお読みください。印象が変わるかもしれません。
◆オマケ
戦後のもののない時期に、樽柿をつけるのに、焼酎がなくて、安い工業用のメタノールを使ったために、中毒死が起こった、というメチル柿事件というのがありました。
メタノールが酸化されると、アセトアルデヒドより毒性の強いホルムアルデヒドができるためなんです。
現在でも、世界中のどこかで毎年のように、酒にメタノールを混ぜて安く売ったために中毒死が起きる、ということが起こっています。ニュースを「この耳」できいてみてください。わかりますよ。
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