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2009年9月17日 (木)

ザリガニ

2009年9月14日の記事で、オンブバッタの話を書き、その中で姿勢の保持について少し触れました。(下の記事です)
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-add8-1.html

◆思いだして、ザリガニに関する名著を書棚から引っ張り出してきました。こういう本です。

山口恒夫 著「ザリガニはなぜハサミをふるうのか」中公新書、1545、2000年7月発行

この本の「第八章 ザリガニはなにを感じるか」に「体のバランス感覚」という項目があります。ここから引用します。

 ・・・
 背中に取り付けた支持棒でもって体を空中に吊るし、体を前後軸まわりに傾けると、左右の大触覚、ハサミ、歩脚、尾扇肢などには傾きを補正するような運動が現れる。眼柄には、体が下に傾いた側を上げ、体が上に傾いた側を下げるような運動が現れる。付属肢の運動は、両端に重りをつけた弥次郎兵衛の横棒の動きにも似た運動で、もとの姿勢に戻そうとする反射(起き直り反射)である。これに対して、眼柄に現れる運動は、それまでの位置を保とうとする反射(補償反射)である。
 さて、このような二つの反射は、体のバランスを監視しているセンサーである平衡胞が、姿勢の変化を感じとってその情報を中枢に送り、送られた情報に基づいて中枢が末梢の筋肉に命令を出すことによって現れる運動にほかならない。平衡胞は左右の小触覚の基部に一つずつ存在する。
 ・・・

続いて、「砂をかぶる」という項目から引用します

 平衡胞の感覚毛上にのっている平衡石について少し述べておこう。母親の遊泳肢にしがみついている稚ザリガニが第三稚エビという段階まで成長し、体つきがすっかり親ザリガニと瓜二つになってくると、平衡胞に"石"を取り込んで、背中を上にして安定に歩くことができるようになる。この段階まで達しない稚ザリガニでは、しがみついていた母親の遊泳肢から離れて独り歩きすると、情けないくらい簡単に横転してしまう
 ところで、平衡石を取り込むというのは、文字どおりに平衡胞の中に石を取り入れることである。ザリガニは脱皮のたびごとに、体を覆うクチクラ外皮と一緒に平衡胞もまるごと脱ぎ捨ててしまう。したがって、脱皮終了後には、否でも応でも平衡石となる砂粒を、新たに外部から補給する必要がある。脱皮から間もない個体に現れる砂かぶり行動と、開口部への眼柄のこすりつけ運動は、外部から開口部を通じて平衡胞内へ砂粒を取り込む動作にほかならない。
 こんなわけなので、成長のために何度も脱皮を繰り返す必要のある稚ザリガニを、鉄粉をいっぱい底に入れた容器で飼育すると、鉄粉を平衡石にしたザリガニを容易に手に入れることができる。磁石を片手に、鉄粉入りのザリガニの姿勢を意のままに操ることができるのは請け合いである。反対にこんなこともできる。先の細いピペットを平衡胞の中に突っ込んで、ピペットの中の水を勢いよく出し入れする。すると、思いのほか簡単に平衡石が外にはじき出されるので、平衡胞があっても体の傾きを感じとれないザリガニが出来上がる。
 ・・・

「しがみついていた母親の遊泳肢から離れて独り歩きすると、情けないくらい簡単に横転してしまう。」
この表現には参りました。最初に読んだときにはもう、嬉しくって嬉しくって、妻にもここを読ませて、二人で笑いあいましたっけ。
 著者のザリガニへの「愛」が満ち溢れて、こぼれだしてきていますね。「情けない」という言葉の温かさ。まだ座れない赤ちゃんを座布団かなにかに寄りかからせて記念写真を撮ろうとしたら、傾いていって転んじゃったぁ、とか、最初の一歩を踏み出そうとする赤ちゃんがペタンとお尻をついてしまった、とかを見守る父母・ジジババの「まなざし」と同質のものが読み取れますね。もうこの一節だけでも「名著」に値するというものです。
 鉄粉を取り込ませたザリガニ、というのもおかしいですね。磁石を近づけると平衡胞の中の鉄粉が引きつけられて、その方向を「重力的な下」と感じて体をコントロールしようとするのでしょうね。妙なことを思いつきましたねぇ。おかしい。

◆さて、9月9日付の朝日新聞の投書欄「ひととき」にこんな投書がありました。

   [ひととき]はさみのない母ザリガニ(2009年9月9日)
 わが家のペットのザリガニの中に、1匹だけ両方ともはさみのない、迫力の全くないザリガニがいる。生まれた時からなのか、けんかでもしたのか……。しかも、他のザリガニよりもはるかに小さい。
 8月上旬、このザリガニが、紫色のような黒色のような卵をたくさん産んだ。他のザリガニに攻撃されないように、ザリガニと卵を違う水槽に移し替えた。そのとき、ザリガニは卵を守ろうとしているのか、私を威嚇してきた。
 餌をあげてみた。食べづらそうだが、はさみ以外の自分の持っているすべての道具を使って、なんとか食べてくれた。見慣れない優しい動きに、私はじっと見入ってしまった。
 今にも折れそうな細い脚で立ち、しっぽをのばし、バサバサと順番に卵たちに空気を送っている。疲れないのだろうか。そう考えた後、このザリガニは、すでに母親として必死なのだと気付いた。
 1週間後、卵に変化があった。卵から小さな赤ちゃんになっていた。小さな小さなザリガニがゆっくり自分で起きあがり、母ザリガニへ向かって歩いていた。
 もしかしたら、自然の中では生きられなかったかもしれない奇跡のザリガニ。私にとっても運命の出会いだった。ザリガニの勲章であるはさみはないが、母親としては金メダルだ。(青森市 36歳)

 ハサミを失ったのは、他の個体との争いのせいかもしれませんし、強い衝撃を受けた場合は自ら切り落とす「自切」もありえます。若い個体では、脱皮を重ねるうちに再生できるのですが、成長してから失った場合はもう再生できないのですね。
投書者が観察した出来事について、上記の「ザリガニはなぜハサミをふるうのか」、第六章 生活史、「揺られて育つ」の項目から、引用して、詳しくご紹介しましょう。

 生み出された卵は、母親の遊泳肢の周期的な運動によって十分に酸素を補給されながら、水温が二十度くらいでは二、三週間で孵化する。孵化した幼生(第一稚エビ)は体長が約四ミリ程度で、尾節の縁は卵膜の内側と紐状のもの(尾節糸)で結びつけられているので、卵膜の内外側ある二本の紐でお尻から吊り下げられた格好で、母体の腹面でブランコをしながら、母親の保護のもとにさらに成長を続けることになる。・・・
 第一稚エビは一週間後に脱皮して、第二稚エビとして成長する。この稚エビは、肛門から糸(肛門糸)を出し、それを第一稚エビの脱皮殻に付着させるので、結局のところ、尾節糸と肛門糸というつながった二本の命綱によって、第二稚エビも母体の遊泳肢に固定されることになる。第一、第二稚エビでは卵黄が代謝源になるので、食物を摂食することなく成長する。
 第二稚エビは一週間後に脱皮して、体長がほぼ八ミリの第三稚エビになる。このような稚エビでは触覚や尾扇肢も発達して、成体と類似した外形になり、独力で母体にしがみつくようになる。行動も活発になり、母体を這いまわったり、母体から離れてふきんを歩きまわったりするものも多くなる。しかし、独り歩きしている稚エビは驚くと、すばやく母体の腹に戻る習性がある。
 この習性で、稚エビが母体に戻る感覚の手がかりは、母体から放出されるフェロモンであることがリトル(E.E.Little、1976)によって報告されている。彼はこのフェロモンを brood pheromone と呼んでいるが、これは"抱児フェロモン"とでも訳すべきなのであろうか。
 このフェロモンは、抱卵したときからつくり始められる。卵の発生段階が初期のうちは、作りだされるフェロモンが稚エビを誘引する効果は弱いが、次第にその効果は増大し、卵が孵化する頃には最大になる。第三稚エビが成長してくると、母体から放出されるフェロモンに次第に誘引されなくなるとともに、母体から離れる時間が長くなり、ついには母体から離れ去ることになる。稚エビが腹にぶら下がっているときは、母ザリガニはフェロモンを出し続け、遊泳肢から稚エビを落とさないおゆに急激な運動を避け、他の個体からも離れて、ひたすら稚エビを守ることに専心する。まして、稚エビを食べるようなことは絶対しない。しかし、稚エビが親離れをして、腹の下が空っぽになってしまうと、もはやフェロモンは分泌しなくなる。・・・
 ・・・

◆この「ザリガニはなぜハサミをふるうのか」という本は、この他にも、面白い話題が満載でしてね。項目名をいくつか挙げてみましょうか。
「胃の中に歯がある」「触覚から尿が出る」「お尻で水を飲む」「お尻で光を感ずる」などなど・・・

 今回この本を引っ張り出してきたら、また全部読みなおしてしまいました。何回読んでも、常に新鮮な喜びを与えてくれる本です。

◆最後に、もうひとつだけ。
この本の149ページに、四角い個眼で構成されたザリガニの複眼の写真があるのです!
私は、小学生のころにイセエビの複眼をレプリカを取って検鏡する方法で観察して、個眼が四角いということを知り、以来、何十年もそのことにこだわっていたのですが、この本にはさりげなくその事実が載っていた。もう、嬉しくって、嬉しくって。感動の嵐だったのです。

ホームページやブログを始めて、インターネット世界に「エビの複眼は四角い個眼で構成されている!」ことを叫び続けている私です。関心がおありでしたら、ぜひ、お読みください。

http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/freestdy/mcrScp.htm
イセエビについて

http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/frends/frnds_14.htm
アマエビについて

http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/frends/frnds_15.htm
ブラックタイガー、サクラエビについて

http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-5956.html
2008年10月27日 (月)エビの複眼は四角い個眼でできている

http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-7473.html
2009年8月 3日 (月)アメリカザリガニ
「たいていの複眼では個眼面が六角形だが、反射型重複像眼では正方形である。エビ類、ヤドカリ類がこれにあたる。」

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