視半径
2009年07月18日(土)付 の朝日新聞「天声人語」の一部です。
・・・
月の400倍の直径を持つ太陽が、約400倍のかなたにある。この奇跡が二つの球体の見かけの大きさをそろえ、月が日にぴたりと重なる時が巡り来る。創造主からの贈り物と言われるゆえんだ。
・・・
こんな表現を、今回、何回も見かけました。
ここでは、これにかかわる話をしましょう。
データは理科年表を参照しています。
◆
月の赤道半径= 1738km
太陽の赤道半径=696000km
696000/1738 = 400
なるほど、400倍大きい。
月の軌道の長半径= 38,4400km
地球の軌道の長半径=1,4960,0000km
149600000/384400 = 389
なるほど、約400倍遠いですね。
◆図1を見てください。
△ABCと△A'B'C'があります。
∠ACB=∠A'C'B'=直角 とします。
便宜的に、AC=a、BC=b とします。
また、A'C'=400a、B'C'=400b とします。(図形の実際の大きさの比は400なんて全く無視していますが話の進め方には問題ありません。)
これが、「400倍大きなものが、400倍遠いところにある」という言葉の内容ですね。
すると
AC:BC=A'C':B'C'=a:b であり
∠ACB=∠A'C'B'
ですから
△ABC∽(相似)△A'B'C' となります。
二つの三角形が相似ですから
∠BAC=∠B'A'C'
となります。
そうすると
左の図2のように、二つの三角形を重ねることができて
A(A')のところに眼を置くと、BCとB'C'が重なってしまって角度的に同じ大きさになるのです。
お分かりと思いますが、皆既日食の場合、BCが月の半径、B'C'が太陽の半径ということになります。
というわけで、「400倍大きなものが、400倍遠いところにある」と「月が日にぴたりと重なる」という言葉の正当性は、このように三角形の相似、という形できちっと裏付けられるのですね。
感覚的には納得しますが、ホント?と確かめてみるのも無駄ではないでしょう。
数学って生活に役立つんですねぇ
◆実際のところ、∠BAC=∠B'A'C'はどのくらいの大きさの角度なのでしょうか?
この図3を見てください。天体の実際の大きさではなく、天体を見る角度で大きさを議論するのですね。
図3の中のθを「視半径」といいます。
月について
tanθ=1738/384400=0.004521
です。
タンジェントが求まればアークタンジェントという関数で角度が求まりますね。
arctan(0.004521)=0.004521
あれ?!タンジェントの値と角度の値が同じになっちゃった。いいのかな?
高校数学で極限を学ぶと、θ→0のとき、((sinθ)/θ)→1 というのを習ったと思います。
(tanθ)/θ=(sinθ)/((cosθ)・θ)=(1/cosθ)((sinθ)/θ)
ここでθ→0のとき、前のカッコ内は1に近づき、後ろのカッコ内も1に近づきますので
結局、θ→0のとき、tanθ=θになってしまうのですね。
ただし、これは角度をラジアンではかっている時のことです。これではピンときませんから
度にしてみましょう。
ラジアンを度に換算するには、(180/π)という値をかけてやればいいのです。
0.004521×(180/π)=0.2590度 です。
1度の約1/4位ですね。
ちゃんというと、15分32秒くらいです。これが月の視半径。
太陽はというと、
tanθ=696000/149600000=0.004652
θ=0.004652rad=0.2665度=15分59秒 これが太陽の視半径。
視半径がほぼ同じですから、「太陽と月の見かけの大きさはほぼ同じ」で、重なることがあれば、月が太陽を隠すことができるわけです。
これが日食なのです。
ところで、
針式の時計の一目盛は6度です。
ですから、月や太陽の視半径は時計の一目盛のさらに24分の1という角度なんですね。
1円玉の半径は1cmです。2m=200cm先に置いた1円玉の視半径は17分11秒くらいです。ですから
太陽や月は2m先の1円玉よりもう少し小さいくらいなのですね。
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