日食について
7月22日(水)に日食が見られるというので、大分テレビなどでも解説が増えましたから、日食のおおよその仕組みはお分かりと思います。
ただ、なんとなく、もう一歩、という感もありますので、少しだけ補足を。
左図では、太陽や月や地球の大きさや距離関係は完全に無視しています。
影の理解のための図です。
月の影が地面に落ちています。
この時、FGの間の影を「本影」といい、EF間よびGH間の影を「半影」といいます。
あまり意識しませんが、普通に地上の物体の影でも、この本影と半影はあるのです。
窓枠の影に、頭の影を近づけていくと、頭にこぶができたようになって、影が伸びることがあります。これは窓枠の半影と頭の半影が重なって暗さを増し、こぶのように伸び出して見えるのです。
◆さて、FG間の本影の落ちている地面上で、V1という観察点を考えます。
V1と月の縁Cを結ぶ直線は太陽の縁Aより外を通過しますから、V1から太陽のA点は見えません。おなじように、V1と月のD点を結ぶ線も太陽のBより外を通りますので、V1から太陽のB点は見えません。
ということは、V1から太陽を見ることができないという事ですから、V1では「皆既日食」が見えるのです。
◆GH間の半影の中の観察点V2を考えます。(EF間でも議論は同じ)
V2とBの間を遮るものはありませんから、V2からBは見えます。
V2とDを結ぶ直線は、太陽面のA'を通ります。そこで、V2から太陽面のAA'間は見えませんが、V2から太陽面のA'B間は見えます。
ということは、太陽面の一部が見えないのですから「部分日食」ですね。
V2がGに近いほど、たくさん欠け、Hに近いほど欠ける割合が少なくなります。
◆今回、鹿児島県のトカラ列島などは、この本影の中に入り、私の住む東京は半影にはいるのですね。
これは1999年の日食のときにミールから撮影した地表の写真です。
真っ黒いところが本影、薄黒いところが半影です。
本影が落ちた所では皆既日食が見え、半影が落ちた所では部分日食が見えているはずです。
この写真には感激しました。
★さて、ちょっと、地球・月の位置関係が変わると、左のようなことが起こります。
本影が直接地面に落ちず、その延長が地面に落ちている、という図です。
本影の延長の中の観察点V1ではどのような日食が観察されるでしょうか。
本影の延長なのだから、皆既日食が見えるだろう、と考えますか?
ちょっと違うんですね。
ずがごちゃごちゃしていますが、V1から月の縁をかすめる直線を引くと、太陽面面に交わってしまうのです。
ということは、V1から太陽面のAA'とBB'が見えるんですね。A'B'間は見えません。
これは、太陽の中心部は隠されているのに、縁の部分が見えてしまうという日食=「金環食」なのです。
今回は、皆既日食であって、金環食ではありません。お間違いのないように。(観察点V2からみえる部分食は同じことなので説明しません。)
◆「ダイヤモンド・リング」というのも聞きますね。
太陽がすべて隠れた直後に、太陽の光が一か所だけ漏れて輝くことがあります。これは、月の「谷」から漏れた光です。月面の谷を観測しているとも言えるわけですね。
同じようなことなのですが、月面の谷から漏れる光が複数連なって見えることがあります。これは発見者の名前をとって「ベイリーの数珠」(Baily's beads)といいます。
太陽が隠れることの方に意識が向きがちですが、太陽を隠す月の表面に関する情報も見られるのだということを意識しながら見ると、日食観測ががより実り多いものになるでしょう。
◆実は、日本の気象衛星ひまわりも日食時の写真を撮ったことがあるようなのです。
1988年3月の撮影だそうです。この写真の存在は寡聞にして知りませんでした。もっと早く公開してほしかったなぁ。せめて教育関係者には公開してほしかったなぁ。授業で使いたかったなぁ。ミールからの写真は授業に使ったんですよ。
いいものを見た、という感覚よりも、なんでもっと早く見せてくれなかったんだ、という不満のほうが募ります。
退職して長くなる私の中に、いまだに「教師眼」が残っているのです。いい写真をみると、「あっ、これは授業に使える!」とすぐ思ってしまうのです。正直、本なんか見ていて、授業に使える写真や図が1,2枚あれば、4千円や5千円だしてももったいないと思わないのです。ほかの部分は使えなくてもね。そうやって、どれほどの「無駄遣い」を積み重ねて授業を創出してきたことでしょう。こういう感覚って、授業づくりということをご存じない方にはなかなかお分かりいただけないと思います。30年教師やって、同じ授業なんかしたことないですよ。毎年、変わるんです。全国の真剣な先生方はみんな同じ。常に新しい授業を模索していらっしゃいます。授業というのは「作品」なのです。教師と生徒が共同して作り出すものです。常に、ライブです。
このブログで掲載した写真や図や解説が授業に使えるようでしたら、存分にお使いください。
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