2009.4.27付 朝日歌壇より
赤ちゃんのにおいたくさん吸いこんでやわらかくなるわれの輪郭:(高槻市)有田里絵
高野公彦さんと佐佐木幸綱さんが選びました。
赤ちゃんものに弱いですね、わたし。
赤ちゃんの乳臭い、甘酸っぱいにおい。いいなぁ。
実はね、少し発酵した微量の悪臭も入っているんですよ。酪酸という乳製品の発酵臭ですが。濃いとすごい悪臭なんですが、ほんの微量だと芳香を引きたてるんですね。(コーヒーの芳香にも硫化水素という悪臭成分が入っているし、香水でもアルデヒド系の刺激臭を少し入れると香りが立つんですよね。日本の調査捕鯨船にシー・シェパードから投げ込まれた悪臭の液体というのも酪酸です。)
カスミソウの英語名に「Baby's breath」というのがあります。ほんのわずかですが、カスミソウの香りの中に酪酸系の匂いが入っているんですね。で、花の香りを引きたてているのですが、嫌いな人は嫌ってしまうようです。
男性の「おじさん臭さ」というのは、ノネナールとかいうのですが、語尾の「ール」という部分が「アルデヒド」の意味です。「ノネ」というのは炭素原子が9個の意味。
脂肪酸が酸化されて、アルデヒドになって、おじさん臭さになるのです。
赤ちゃんだと、微量の悪臭がおかあさんを「やわらかく」してしまうのにね。
おじさんや、おじいちゃんは、ソンだなぁ。
◆昔話。
1:ある都立高校、冬のこと。ガスストーブの加湿用蒸発皿に、昼食時の牛乳の残りを流し込んだ愚か者がおりました。
温められて、発酵して、酪酸ができ、教室中が悪臭で満ち満ちて、大騒ぎ。
化学教師の私が出動して、事の成り行きを説明し、蒸発皿を洗って、一見落着。
やった奴はめげたろうなぁ。
2:化学の授業で、液体の酸ということで実験室で酪酸を紹介。悪臭をかがせました。私が黒板に向かっているすきに、悪童が手近のピペットに少量吸い取って、持ち出したんですね。
教室に持ち帰ったけれど、あまりの悪臭に、ロッカーに新聞紙にくるんで押し込んだのですが、それでも、教室中が悪臭に満ち、生徒全員から弁当も食えない!と苦情が出て、大騒ぎに。情けなさそうに、化学室へ返却にやって来たのでした。さして説教もくらわせませんでしたが、強烈な反省がにじみ出ておりました。
3:酪酸をエタノールと反応させると酪酸エチルという化合物ができ、原料は悪臭ですが、この物質は香料としても使えるパイナップルの香り。
この実験を、5階の化学実験室でやった先生がいまして、悪臭が廊下から、階下へ流れていったのです。真下は調理室。不評でしたね。
生徒たちがこの悪臭はどこから出ているのか、と、まるで犬のように鼻をひくひくさせながら校内を探り歩き、化学室の前まで到達して「ここだぁ」と叫んでおりました。
4:酪酸エチルをつくる実験をした、独身の同僚。家へ帰ったら、母親に「あんた、また靴下洗濯に出さないまま履いているでしょ!!」と怒られた、とこぼしておりました。