思春期
2009.4.12付 朝日歌壇より
何聞いても返事「うん」のみ子はいつかガラスの向こうのエンゼルフィッシュ:(和泉市)長尾幹也{馬場あき子 選}
卒業証書手に受けくるっと前を向く子らは何をか断ち切るように:(和泉市)長尾幹也{佐佐木幸綱、永田和宏 選}
二首あわせてお読みください。そうすると、多少なりと、全体像に近づけるかと思います。
一首目では、「子」の年齢が想像しづらいのですが、とにかく、思春期に入った男の子の「無口」です。それはよくわかります。私も昔思春期だった頃があるんですから。私の兄なんか、4年間もほとんど口をきかず、二人で一部屋に暮らしていて、「すごかった」ですからね。
二首目を読んで、卒業して、新しい年度を「新入生」として迎えようとしていることがわかりました。
新しい環境へ、新しい生活へ、心の切りかえに緊張しているでしょう。
◆「ガラスの向こう」という表現が好きです。見えているのに隔絶している、その感覚が伝わります。
個人的に、禁煙を始めた頃、禁断症状だったのでしょう、世界はそのままに見えているのに、世界の約束事と自分がつながっていない、ガラス板の向こうの出来事のように、すべてが他人事のように感じられる、という経験をしました。20年以上も前の話ですが。
世界と自分のつながりが回復するとき、上の歌のお子さんも、より豊かな姿で親の前に立ち現われてくるはずです。
蛹のごとくに、待ちましょう。外から見て変化のない蛹の時代こそ、最も激しい成長の活動をしているのですから。
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