雨滴(自動車のフロントガラスに)
前の記事で、諏訪兼位先生の短歌をご紹介しました。
空中を落下していく雨滴の姿を高速カメラがとらえた映像を見た感想を歌に詠まれたものです。
私たちの日常生活で、空中を落下する雨滴を肉眼でしっかりと見ることはできません。
でも、この写真のような状況なら、結構見かけるのではありませんか?
これは自動車のフロントガラスに付着した雨滴が、合体して重みで流れていったところを撮った写真です。
こんな長いのも出来たりします。
このような状態が観察できるのは、撥水処理をしてもらってしばらくの間のことです。私の車では、年に何日かしかありません。
しばらくすると、ガラス面と水の付着力が増して、こういう流れ方はしなくなります。
これ、いったいどういう状況なのでしょう?
ひと言でいってしまうと、「引き伸ばされた水滴」の状態です。
水滴に働く力はガラス面との付着力と重力です。
もし、付着力がゼロだったら、雨滴はガラス面に当たって、そのまままん丸い形で転がり落ちてしまうはずです。
付着力はゼロではないがごく小さい=撥水性の状態にあるときにこうなります。
雨滴は重力によって下へ流れようとします。でも、少しガラス面に付着して長さが伸びます。伸びたところで別の水滴と合体して水の量が増え、勢いよく下へ流れます。付着力によって水滴はすごく長く伸びます。伸びた水滴の下の部分がウィンドの下に当たって停止したとき、付着力より表面張力が勝っていれば、伸びた水滴は丸くなろうとして後ろに残してきた水をスルスルっと回収してしまいます。つまり細長く引き伸ばされた一個の水滴なんですね。
もし、伸びすぎて、途中にくびれが出来ていたりすると、表面張力でそういう部分がくびれ切れて、後に残ります。2枚目の写真にその取り残される様子が写っていますね。
付着力が大きいと、水滴が流れていったあとに、帯状の濡れた部分が残るだけになります。そうして各部分で小さな水滴に、表面張力でまるまったり、それもできずに、ただ濡れを残すだけになります。これが、日常一番よく見る状態でしょう。
圧倒的に付着力が大きくて、表面張力なんか無視、ということになると、ガラス面全体が濡れて水の膜で覆われることになります。こういう状態は、超親水的といいます。
二酸化チタンコーティング(光触媒コーティング)した鏡では、表面がこの超親水状態になって水滴ができず、曇らないのですね。風呂場で水蒸気が当たっても曇りません。
車用品で、ドアミラーに貼って超親水状態にするフィルムというものがあります。
超撥水状態では、細かい水滴がつくことは避けられません。軽い風で吹き飛ばされるといっても、ドアミラーの曇りは避けられません。こういう場所では、逆にべたっと濡れる超親水性の表面にするのが良いのです。
たまたまフロントガラスが撥水状態にある時に雨にあい、写真を撮ったら、諏訪先生の歌もあったので、まとめてお話ししました。
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