ひび
2009.2.16付 朝日俳壇より
あたためる柩の妻の胼(ひび)の指:(岡山市)大本武千代
◆コメントも書けないし、つらくて、載せずにいたのですが、男性の投稿欄「ひといき」に下のような一文が載りました。
ただ、合わせてお読みください。
[男のひといき]勲章のあかぎれ(2009年2月21日付 朝日新聞朝刊)
1年ほど前、夕食の片づけを終えた妻が、イスに座って新聞を読んでいた私に「ねえ、ちょっと見て」と自分の手を見せた。驚いた。親指がナイフで切ったように深く横一直線に切れ、赤い肉が露出しているではないか。あかぎれだ。
妻はよく、風呂上がりにクリームを手に塗り込んでいた。手が荒れているのだろうとは思っていたが、これほどひどいあかぎれとは不覚にも知らなかった。
私は即座に「うわー、ひどい。しみるだろう。当分の間、私が食器洗いをしよう」と申し入れた。ところが妻は「いいですよ。食器洗いは主婦の役割だから私がします。あかぎれは主婦の勲章みたいなものよ」と取り合わなかった。結局、妻はあかぎれのまま、冬を乗り切った。
その妻もがんとの闘いには勝てず、8月に他界した。それから、私の一人暮らしが始まった。夫としての仕事に家事全般が加わり、この1月くらいから手が荒れ出した。親指にあかぎれができた。今はざっくり赤い切れ目ができて、みかんの皮をむくのにも難儀している。
毎晩、食器洗いが済むと、イスにかけながら傷口の手当てをしている。そうだ、私はもう主夫なんだ。これから、このありがたくない勲章を何回受けることになるのだろう。亡き妻の言葉を思い出しているこのごろである。
(神奈川県鎌倉市 島田巌<いわお> コンサルタント 73歳)
「崩彦俳歌倉」カテゴリの記事
- 榠樝(2021.02.01)
- オオスカシバ(2020.10.06)
- 猫毛雨(2020.04.20)
- 諏訪兼位先生を悼む(2020.03.25)
- ルビーロウカイガラムシ(2020.01.17)
コメント