ホームレス歌人
2009.3.9付 朝日歌壇より
ホームレス歌人の記事を他人事(ひとごと)のやうに読めども涙零しぬ:(ホームレス)公田耕一
永田和宏 評:公田さん、先日紙上に掲載された自らの記事を他人事のように読んだという。自分には関係ない気もするが、やはり泣けてしまったと。切ない歌だが頑張ってほしい。
佐佐木幸綱 評:二月十六日の本紙朝刊(東京版)の記事を見ての作。複雑な感慨を一首にこめる。「零れぬ」ではなく「零しぬ」とある点が、作者の感慨の方位を読むポイント。
胸を病み医療保護受けドヤ街の柩のやうな一室に居る:(ホームレス)公田耕一
公田さんあなたを知るまで郵便は届いて普通と思っていました:(東京都)辻好美
◆朝日新聞の読者ではない方の為に、その後、をお知らせします。短歌あるいは詩全般への素養の非常に高い方です。
「胸を病み」というのが、肺炎・結核のような肺の病気でいらっしゃるか、心臓の病気でいらっしゃるか、わかりません。どうか御大事に。
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[天声人語] 2009年03月02日(月)付
「美しき星の下に」というシャンソンがある。詞と曲は「枯葉」のコンビ、女神ジュリエット・グレコがデビュー間もない1951年に吹き込んだ。〈腹ぺこの浮浪者はベンチで眠り、老いた娼婦(しょうふ)たちはまだ客を引く……〉。底辺の日常がカラリと描かれる。
曲を詠み込んだ一首がある。〈美しき星空の下眠りゆくグレコの唄(うた)を聴くは幻〉。作者の公田耕一さんは、朝日歌壇に現れた自称ホームレスだ。この歌は選外ながら、耳底に残る「良き時代の音」に、野宿の身を重ねて哀(かな)しい。
横浜の人らしいが、その境遇までが「作品」なのか、確かめようはない。読者の激励を届けたい、ずっと歌壇とつながっていてと願い、担当者は「ホームレス歌人さん、連絡を」と記事にした。その後も黒いボールペンの細字で、連絡先のない投稿が続いている。
在パリのシャンソン愛好家、長南(ちょうなん)博文さんからお便りが届いた。「この曲を知る人はファンでも少ない。50年代に青春を送った70歳前後のフランス通か」との推理だ。
〈百均の「赤いきつね」と迷ひつつ月曜だけ買ふ朝日新聞〉。月曜朝刊の歌壇は新しい紙面で、という潔さがうれしい。グレコの日本公演を長く手がける中村敬子さんは「若くして欧州の文化を愛したであろう方が食うや食わずなんて、胸が詰まります」と語る。
春が来て幻に聴く曲も変わろう。詮索(せんさく)は控え、新星の輝きを見守りたい。その「住所」は作歌の背景にして源泉、それで十分だ。知りたくもあり、知りたくもなし。読者と一緒に迷いながら、週の初めに書く。
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ホームレス歌人さん返信「連絡とる勇気、ありません」 2009年3月9日3時0分
ホームレス歌人の記事を他人(ひと)事(ごと)のやうに読めども涙零(こぼ)しぬ
本日付の朝日歌壇欄に永田和宏・佐佐木幸綱両氏が選んで掲載された自称ホームレス・公田耕一さんの作品だ。住所がないために投稿謝礼も応援の声も届けることができない無念を託し連絡を求めた朝日新聞2月16日付朝刊(一部地域を除く)の記事を、公田さんは読んでくれていた。
この歌を記した投稿のはがきには、きちょうめんさがうかがえる丁寧な字で添え書きがあった。「皆様の御厚意本当に、ありがたく思います。が、連絡をとる勇気は、今の私には、ありません。誠に、すみません。(寿町は、東京の山谷・大阪の釜ケ崎と並ぶ、ドヤ街です。)」
公田さんは、横浜市中区寿町辺りにいることをあかしている。だが、「強引に捜すべきではない」というのが選者や他の投稿者らの意見だ。今も週1、2回のペースで投稿があり、片道ではあるが朝日歌壇との回路はつながっている。いつか“勇気”がわく日を待とう、という考えだ。
しかし気になることがある。
胸を病み医療保護受けドヤ街の柩(ひつぎ)のやうな一室に居る
やはり本日付で高野公彦氏が選んだ一首から、健康を損なった様子が見える。
選外だが〈我が上は語らぬ汝の上訊(き)かぬ梅の香に充つ夜の公園〉という歌がある。詮索(せんさく)を嫌う人柄の表れだろう。だが、再び公田さんに呼びかけたい。「柩のやうな一室」をシェルターだと思って、健康を取り戻してほしい。
入選を重ね、朝日歌壇あての応援歌は増えるばかりだ。ある人は公田さんの名を探すことが月曜朝の日課になった自分を詠み、ある人は奈落の底から発信される生の歌の迫る力にうたれ、脱帽するとうたう。どの作品にも誇りを捨てず歌を携え生き抜いて、との願いがこもっている。(河合真帆)
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[声]家なき歌人に 心配と期待と(2/20)
主婦 内藤美子(さいたま市大宮区 50)
私は俳句や短歌の才能もなく、歌壇のコーナーは斜め読みか、飛ばして読んでいたのですが、ある時、「(ホームレス)公田耕一」さんの歌が目に留まって以来、毎週楽しみにしておりました。
住所不明だと新聞社は連絡をどうしているのかなどと余計な心配をし、お金が不自由だろうから投稿用のはがきを新聞社経由で送って手助けしてあげたいと、本気になって考え始めていました。そうこうしている中での「ホームレス歌人さん、連絡求ム」の記事(16日朝刊)。
「親不孝通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす」の歌で公田さんの人となりを想像し、もう私の頭の中では勝手に40代の男性像が広がっています。
そっとしておくことが公田さんの気持ちに沿えるのかもしれませんが、記事のように名乗りを上げてもらい、「謝礼」のはがきを受け取って、またたくさん投稿してもらいたいと願っております。
再就職とご健康をも祈りつつ。
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