白リン弾
2009.2.23付 朝日歌壇より
寒の朝温き布団に包まりてガザに落ちいる白リン弾を見る:(静岡市)山本武
白リンって何でしょう?高校で化学を学ばれた方なら、「黄リン」という名前で教わったはずです。リンの同素体です。
「エッセンシャル 化学辞典」東京化学同人 によりますと
黄リン[white phosphorus] リンの同素体の一つ。気体や液体のリンを冷却すると生じ、純粋なものは白色なので白リンともいう。・・・35℃で自然発火し・・・。室温で徐々に酸化され、黄緑色の光を発する。室温でゆっくり赤リンに変わる。α黄リンは発煙剤や殺鼠剤に使われたことがある。猛毒。皮膚との接触は避ける。飲みこんだ場合の致死量50mg。
危険極まりない物質です。別の同素体の赤リンは安定で、無害ですので口に入っても消化・吸収されずに排せつされるだけです。マッチの箱の横が赤紫色になっていたらそれが赤リンの色です。
白リン自体、接触すれば猛毒だし、自然発火するし、皮膚にくっついたまま燃え続けて、普通には消せないし、とんでもない物質です。
発煙剤といって、ただ煙が出るだけか、と安易に思わないでください。リンが燃えると五酸化二リンというものができます。これが煙の正体。また「エッセンシャル 化学辞典」から引用します。
五酸化二リン[diphosphorus pentaoxide]黄リンを過剰の乾燥空気または酸素中で燃焼させると得られる。無色の結晶。水には多量の熱を発生して溶ける。吸湿性、脱水性が強い。粘膜を刺激し、目に入ると危険である。・・・
ただの煙じゃないんです。皮膚の水分に強引に溶けて「熱い」んです。溶けたリン酸はかなり強い酸性を示します。空気中に水蒸気があると、水蒸気を液体にして溶け込み、リン酸の霧ができます。
白リン弾、煙が出るのか、では済まないのです。車に積んである発煙筒とはわけが違う。
実に気分の悪い物質なんですね。
2009年2月4日付の朝日新聞朝刊の[ニュースがわからん!]に
「白リン弾」ってどんな兵器?というのが載りました。
アウルさん 最近、「白(はく)リン弾」という言葉をよく聞くけど、何のこと?
A: 化学物質の白リンを詰めた砲弾のことだよ。白リンには、空気に触れると自然発火して大量の煙が出る特性がある。そこを利用し、第1次世界大戦のころから主に煙幕を発生させる目的で使われてきたんだ。ただ、戦闘で赤外線を使う現代では煙幕の効果が薄く、時代遅れになりつつあるようだね。
アウルさん それがなぜ、いま問題になっているの?
A:イスラエルが昨年末から23日間にわたり、パレスチナ自治区ガザを激しく攻撃した際に、これを使ったといわれているんだ。しかも、一般の住民が多い市街地で使われ、市民がやけどを負ったと疑われている。発火しやすく、水での消火が難しいので焼夷(しょうい)弾として使われた可能性がある。国連は、国連パレスチナ難民救済事業機関の現地本部への攻撃でも使われたと見ている。国際NGOは、市街地での使用は戦争犯罪だと批判しているね。
アウルさん 化学兵器なの?
A:それが違うんだ。化学兵器禁止条約などの個別の規制対象に、白リン弾は入っていないと国際的には理解されている。殺傷目的ではないと考えられてきたからね。あえて焼夷弾として使った場合は、民間人を狙ったり、人口密集地で使ったりしてはいけないという特定通常兵器使用禁止制限条約に触れる可能性を指摘する人もいる。
アウルさん イスラエルは何と言っているの?
A:「兵器は国際法に従って使っている」と繰り返し、白リン弾を使ったとも、使わなかったとも明言していない。イスラエルの有力紙ハアレツは、軍の内部調査の結果、少なくともガザ北部のベイトラヒヤで20発が使われたことが判明したと報じた。
アウルさん 使われた例は、ほかにもあるの?
A:04年に米軍がイラクで、06年にイスラエル軍がレバノンで、それぞれ実戦で使ったことが知られている。また、米海兵隊は08年11月の北海道・矢臼別(やうすべつ)演習場での訓練で20発を使ったと認めた。白リンに不純物が混じったものが黄(おう)リンで、これはかつて、殺鼠(さっそ)剤の代名詞だった「猫イラズ」の主成分として日本でも使われていたことがあるんだよ。
「人道的な兵器」などというものは言語矛盾で存在し得ませんが、それにしてもひどすぎます。
ヒトってどこまで堕ちることができるのでしょう?
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