おまえ
2009.1.19付 朝日歌壇より
愛情を込めて呼ばれる「おまえ」なら呼び方なんかにこだわりません:(大津市)纓坂佳子
永田和宏 評:そうよね、と同感する同性は多い筈。それでも嫌だろうか。私は「あなた」と呼んでいる。
◆この歌自体には、私も同意しますが、私自身は永田さんと同じく「あなた」という呼称を使っています。
教師としての私は、かなり口の汚い方でしたから、名前は呼び捨て、説教の時は「おまえなぁ」といような言い方はよくしました。むしろ私が「きみ」なんて呼びかけるときは要注意です。「くん」とか「さん」とかつけて呼ばれたら、生徒自身、何かまずったかなぁ、と思わせる言い方でした。
(最近は注意しないとね。保護者からクレームがつきます。愛情込めて「ばっかもん」といった先生が、保護者会で、「生徒を愚弄した」とクレームがついたことがありますからね。)
◆さて、それはそうとして。朝日歌壇への投稿ですから、実はこの歌、朝日新聞の記事の流れの中にあるのです。
作品は作品として、独立して鑑賞されるべきだ、という私の主張は変わりませんが、私の知る限りでのこの歌の背景を、ちょこっとお知らせします。
・新聞紙上で「おまえ」の話が出たのは3回。
①1回目は「アスパラ・アンケート」という形で、beという別刷り紙面に「おまえと呼ばれたら、どう感じる?」というアンケート結果が載りました。
10月27日だったと思います。見出しは「「おまえ」不快・腹立つ、8割」でした。
②2回目はこのアンケート結果を受けた天声人語です。
2008年12月06日(土)付■(天声人語)
10月に亡くなったフランク永井さんの名曲に「おまえに」がある。〈……僕のほころびぬえるのは/おなじ心の傷をもつ/おまえのほかにだれもない/そばにいてくれるだけでいい〉。固い契りを、ささやくように歌い上げた。
夫婦か、恋仲か。おまえと呼ばれて、女性側に何の違和感も生じない関係であろう。主従ではなく、絶対的な信頼で結ばれた男女が浮かぶ。〈そばにいてくれるだけでいい〉人など、そういない。
朝日新聞の会員サービス、アスパラクラブが「おまえ」という呼び方への反応を約2万人に聞いた。配偶者や恋人にそう呼ばれたら「腹立たしい」「なんとなく不快」との回答が、男女とも8割あった。「新婚当初、それでよくけんかした」女性もいる。
職場でも、女性のほぼ9割、男性の7割が不快に感じていた。「おまえ呼ばわりは一種のパワハラ」(30代女性)「尊敬できない上司から言われるのは抵抗がある」(30代男性)等々。
ここまでの不人気、ほかならぬ「御前(おまえ)」が首をひねるに違いない。もとは目上に使う呼称で、おんまえ、ごぜんと読めば察しがつく。それが江戸期から同等や目下にも使われるようになり、戦後は「おれ」と対をなす、男臭くて荒っぽい語感を帯びた。相手が男でも女でも、信頼関係に余程の自信がなければ控えるのが賢明だ。
当方、家族を「おまえ」と呼んだこと数知れない。それでモメた覚えもないのだが、先の調査結果を知って不安がよぎった。もしや先方が耐え忍んできたのではないか。聞いたら、その通りだった。
③3回目は12月16日付の「ひととき」でした。
「おまえ」でいいよ
6日付の天声人語で、「おまえ」について書かれていたのを、おもしろいなと思いながら読んだ。
物静かで穏やかな夫は「おーい」と遠くから呼ぶことはないけれど、一日に何回も「おまえ」と言う。
「おまえ薬のんだか」とか、「おまえは何時に出かけるのか」とか。私がすることを聞くときは、いつも「おまえ」だ。でも一度も、腹立たしいとも不快だとも感じたことがない。
・・・
いつまでも「おまえ」でいいよ。背中に向かい、心の中で静かに思った。
(○○ 主婦・74歳)
こういう流れの中で上に掲げた歌を読んでみてください。味わいが変わるでしょうか。
◆実はこの「おまえ論議」には、もっと裏話があるのです。
アサヒ・コムに(無料)会員制の「アスパラ・クラブ」というのがありまして、その中に、朝日新聞の記者たちが書いているブログがあるのです。その中にまた、名古屋本社の女性記者たちが交替で書いている「Cafe ヨクバリージョ」という題のブログがあります。
働いているから、結婚したから、ママだから--と、何かをあきらめるのではなく、あえて欲張りになってみませんか。そんなヨクバリージョ(欲張り女)応援の気持ちを込めて、名古屋本社で働く女性たちがつづるブログです。
このブログ、面白いのでよく読んでいます。
・さて、2008年6月24日に「おまえって言うな!」という題名の記事が載りました。これが最初の問題提起です。
で、よく聞かれるんです、男女問わず。「どんなタイプが好みなの?」と。そんなときに答える私の絶対条件はこれです。
「おまえって言わない人」
・・・
さて、みなさん、パートナーを、同僚や部下を、どう呼んでいますか。
この記事には、コメントが33件もついて、大にぎわいになりました。
・10月28日に第2弾。
「おまえ」談義、ふたたび
仕事やプライベートでの「おまえ呼ばわり」について、「おまえって言うな!」なんてタイトルの記事をブログに掲載したのが6月末のことでした。たくさんアクセス&コメントをいただいた余勢を駆ってアスパラアンケートを実施。ようやく先日、新聞紙面でその結果をお伝えすることができました。・・・
男女ともにざっと8割の方が、恋人や妻、夫から「おまえ」と呼ばれることを苦々しく思っていることが分かった・・・
この記事についても23件のコメントがついて、またまたにぎわいました。
・このあと「天声人語」「ひととき」と続いたのです。そして、第3弾
「OLはいかが?」という題名です。
ところで、このブログを普段からお読みになっている方なら、12月6日付の天声人語を読んで、「おぉっ」と思われたに違いありません。「うふふ」と思わず笑いがこぼれてしまった方もいらっしゃったりして? 約2万人のアスパラ会員にご協力いただいた「おまえと呼ばれたら、どう感じる?」アンケート(通称:おまえアンケート)についての36行でした。
天声人語子の考察は、「相手が男でも女でも、信頼関係に余程の自信がなければ控えるのが賢明だ」という結論。もしやと思って家族の見解を求めたら、ずっと「堪え忍んでいた」ことが判明するという見事なオチもつきました。
そうかと思えば10日付の「声」欄には、結婚当初より夫から「おまえ」と呼ばれ続けてきた67歳の女性が、「『おまえ』でいいから、これからもよろしく」 と夫に優しく語りかけようとの投書を寄せられました。このご夫妻の、絶対的な信頼関係がうかがえます。・・・
コメントは13件。大分、落ち着いてきたようですね。
「OL」って何だ?
さて。
狙い通り、記事を読んで我が身を振り返った、ある上司から一つの提案がありました。
「おまえ認定証」をつくったら?
認定証さえあれば、うっかり「おまえ」呼ばわりしてしまったときも安心(?)ということのようで・・・。
で、つくっちゃいました!
「Omae Lisence=OL」・・・
◆こんな具合です。一つの歌に結実した「おまえ」論議の流れをご紹介しました。
お楽しみいただけたでしょうか。
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