体重計
古い体重計を分解しました。最近の体重計は体脂肪率が測定できたりして、「電子的」になっていますが、この体重計は、純粋に「機械的」です。分解してみて、その単純さに感動すら覚えます。
要するに「バネばかり」です。
上の写真は、上面のカバー=乗る面をはずしたところです。体重を表示する回転できる目盛盤が目立ちます。四方から棒がクロスしているようです。右の方に短いコイル状のバネがあります。これが、体重に比例した伸び縮みをするバネです。では、このバネに体重がストレートにかかるのでしょうか?
目盛盤をはずしてみました。
右に置いてあるのが上のカバーなのですが、ちょっと勘違いして、上下逆さまですが、議論に全く影響はありません。
左が本体。下の二つの隅から長い2本の棒があって、バネを押し下げます。上の二つの隅から短い2本の棒があって、長い棒を押し下げます。
人が乗る上のカバーには4カ所、切れ込みのある板が付いていて、これが、長短4本の棒に体重を分散して押し下げます。
長い棒でよく観察してみましょう。
棒とはいっても板です。板をこういう向きに使うとほとんどたわむことがありません。体重によって、この棒(板)がしなうことはないのです。
棒の支点はケースの縁。体重がかかる力点は支点のすぐ内側。棒がバネを押す作用点は棒のずっと先の方。ということになります。
何だか変ですね。普通に小学校などで学ぶテコとは感じが違いますよ。
左の図の上が普通のテコです。支点が間にあって、力点との距離OAが作用点との距離OBより長いのが普通のテコですね。
ところが、体重計の中の棒は図の下のような構成になっています。
支点が力点と作用点の間ではなく、外にあります。このような使い方を逆テコといいますが、あまり知られた使い方ではありません。
(OA/OB)の値は、普通のテコでは、OB<OAなので1より大きく、力を得します。(距離で損して、掛け合わせたものが同じ、になるのです。)
逆テコではOB>OAなので(OA/OB)の値は1より小さくなります。つまり力が小さくなるのですね。
このため、体重を4つに分けて、各々の棒に分散させた上に、逆テコによって、バネにかかる力はさらに小さくなるのです。ですから、バネは、測定限界の100kgの人が乗っても、100kgの力がかかるわけではなく、1/4のまた何分の1かの力しかかからないようになっているのです。
この小さくされた力に比例した伸びがバネに生じます。この伸びは上下方向です。
ちょっと巧妙な仕掛けで、バネが上下に伸び縮みすると、そこにはさまれた板も上下し、その上下動が(何という名前で呼ぶ仕組みなのかは知らないのですが)写真での左右方向の移動に変換されます。(弱いバネで常に下向きに押さえつけられている棒が上下すると、回転によって左右方向の動きに変えられるのです。)
この写真のギザギザの歯がついた棒が、左右に動きます。すると、ラック・アンド・ピニオンという(顕微鏡でピント合わせのねじを回転させると鏡筒が上下する仕組みがありますね、あれと同じ)仕組みで、棒の直線的な動きが、今度は左1/3くらいのところにある軸を回転させます。この軸に目盛盤がついていて回転して、体重を表示するわけです。
体重→4カ所に分散→逆テコで力の縮小→バネの伸び→(回転)→水平方向の直線的な動き→ラック・アンド・ピニオンで目盛盤の回転→体重の読み取り
こういうシステムなのです。完全にメカニカルな装置なのですが、実によくできています。
力学と工学の基礎をちゃんと知っていないと、何が起こっているのか理解できないかもしれません。シンプルにしてパーフェクトな装置でした。
かんどう!
◆ちょいと別件。私たちの体を観察してみてください。筋肉の腱は関節を越えて向こうの骨についています。これ、逆テコです。
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/21th/sci_21.htm
ここに詳しいことが書いてあります。
腕でいうと、力では損をしながら、手先の大きな動きが可能になります。
手の先で10kgのものをもったら、筋肉はその10倍やそこらの力を出しているのではないでしょうか。すごいでしょ。
体の中に骨格のある動物だけではありません。外骨格といって、体の外側がかたい動物でも同じ。昆虫やエビ・カニも同じです。カニの脚を食べるときに注意して観察してみてください。食べるのは筋肉。筋肉が出す力は、必ず関節を越えて向こう側、なのです。
でなきゃ、動けないもん。
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