10万年に1秒
2009.1.10付の朝日新聞の「いわせてもらお」という面白話の欄に、こんな話が載っていました。
◎先取り
「10万年に1秒しか狂わない」という時計を買って3年。すでに3秒も遅れている。複雑な思いで時計を見つめていると、妻が言う。「これから30万年間は1秒も狂わないのよ」
(長崎市・確かめられないじゃないか・61歳)
◆そう、そういう広告を見ますよね。でもね、その正確さはその時計のものではないのです。そこのところ、ご存知でしたでしょうか?
「10万年に1秒」という正確さがあるのは、電波時計の電波を送りだしている独立行政法人情報通信研究機構が保有する、12台のセシウム原子時計の精度なのです。その仕組みはここでは説明しません。現在はもっと高い精度の原子時計も研究されています。
ここでは、少々ややこしいですが、現在の秒の定義だけ書いておきます。
秒はセシウム133原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の9 192 631 770 周期の継続時間。
やたらと細かい定義ですね。こういう細かい数字を刻めるのが原子時計なのです。それは正確です。
それに従った時刻のデータが、標準電波報時という形で送り出されます。福島県の大鷹鳥山と、佐賀県の羽金山の2か所から。
この電波には、時、分、通算日、年(西暦下2桁)、曜日、うるう秒情報、時と分に対応するパリティ、予備ビット、停波予告情報といった情報がのせられています。これを受信してデジタル表示したり、アナログ表示したりするのが電波時計なのです。
この電波は、40kHzと60kHzという振動数の低い、長波という電波です。正直いって、そう受信しやすい電波ではありません。そこで、電波時計は5分とか10分とか、連続して受信して、信号を重ねます。雑音は重ねると平らになるので信号が際立ってくるのです。
こうやって、定期的に電波を受信して調節している限り、その電波時計の精度は電波発信元の原子時計に同調して、「10万年に1秒」の正確さだ、といえるのです。
とはいえ、正常に受信できていても、表示がずれることはあります。さらに、もし、その電波時計が自動受信になっていなかったり、電池が古くなってきたり、電波状況の悪いコンクリートの建物の中に置かれたりすると、電波が受信できず、時計単独で動くことになります。そうすると、その時計は通常のクオーツ時計として働くことになります。クオーツ時計は月に10秒前後の狂いがあるものです。
冒頭の面白話に登場する時計は、3年で3秒遅れたというのですから、非常に高精度で動いています。時々電波の受信に成功して、他の大部分の時間はクオーツ時計として動いている、というような事情ではないでしょうか。
(鉄筋コンクリートの建物の中は、鉄筋のカゴで囲まれた状況です。長波の電波はこの鉄筋のカゴの中に入れないので、電波時計は電波を受信できないことが多いのです。窓を開けて、外に出してやってください。そうすると電波が受け取りやすくなります。木造家屋ではそういう心配はあまりありません。)
◆ところで、今年の元日の「午前8時59分59秒」と「午前9時00分00秒」の間に、「午前8時59分60秒」という時間があったのをご存知でしょうか?
1秒余分に入れたのです。これを「うるう秒」といいます。
原子時計で地球の自転とは無関係に時刻が刻めるようになったら、地球の自転が遅くなったり早くなったりふらついていることが分かりました。そこで、天文学的な時刻と、原子時計による時刻の差が0.9秒以上にならないように調整しているのです。これを「うるう秒」といいます。
地球の自転が遅くなるのは月との重力相互作用によって地球に潮汐が起こり、その摩擦によるというのが大きな原因のようですが、それがすべてでもないようです。むずかしいですね。
うるう秒について詳しい話を読みたければウィキペディアなどどうでしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%8F%E7%A7%92
情報通信研究所(NICT)のホームページのここを見ていただくと、標準時が目で見られますよ。ご利用ください。
http://www3.nict.go.jp/cgi-bin/JST.pl
過去のうるう秒の詳しいグラフもあります↓
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