交通標識
撮影したのは5時半くらいで、ずいぶん暗くなっていました。
この写真は標識をほぼ正面から撮ったものです。
では、次の写真をご覧ください。
どちらから撮っても明るく光っていますね。
ということは、カメラのフラッシュが送り込んだ光が、カメラの側に返ってきているということです。
交通標識ですからね、車などがこの標識を照らした時に、ヘッドライトの光を受けて、反射光をドライバーに送り返し、情報を伝えなければなりません。
ということで、当たり前のことです。
でも、自分で電源を持っていて自分で光っているわけでもないのに、光を当てた側に光を送り返すって、何だか変じゃありませんか?
入射角=反射角
ですよね。
この法則がちゃんと成立していたら、送った光は、そのまま向こうへ行ってしまって返ってきませんから、写真に撮った時にこんなに明るく写るわけがないのです。
光を送った側へ光が送り返されている。
これって、反射の法則に従っていませんが、いいんでしょうか?法則がそうそう簡単に不成立になってしまったんじゃ、困ります。
実は、一枚の鏡だったら「交通標識」とかいた上の図の出来事は起こりません。「反射の法則」の図のように光は進みます。
◆仕組みはこうです。
2枚の鏡を直角に置きます。すると、図に描き込んだように、それぞれの場所では反射の法則が成立しているのですが、2回反射した後の光は、もと来た方向へ返って行くのです。
黒い線で描いた光線、赤い線で描いた光線、吟味してください。
これが、光を送り込んだ側へ光を送り返す仕組みです。
3面鏡があったら、2枚の鏡を直角にして、自分を映してみてください。鏡の向こうに、自分がちゃんといる感じになりますよ。面白いです、ぜひお試しを。
◆上の図は2枚の鏡の組み合わせでした。3枚の鏡を直角に組んだらどうなるでしょう?
こんな感じです。
遠近感の表現がうまくいっていませんが、つもりとしては、三枚の鏡が交わる点がくぼみんでいるつもりなんです。そのつもりで見てください。
こういう風に鏡を組み合わせると、どの方向から入射した光でも、その入射方向へ反射して返って行くのです。
さて、上のような3枚組の鏡を、まっ正面から覗きこむと、自分の顔が逆さまになって「自然に」写りますよ。顔の右の部分が鏡の中の顔の向かって左にうつり、左は右へ、上は下へとなって写るからです。
対称性よく上の図を描くとこんな風です。
六角形に見えますね。
では、次の写真と見比べてください。標識の部分拡大です。
この標識板、完全に中の方まで理解しきっているわけではないのですが、どう考えても、上でご紹介したような、「3枚の直交する鏡」の原理を使っているはずなのです。そのことが、見掛け上、「六角形ユニット」を見せているのだと思います。
電源も使わず、運転者には必ず光を送り返して、情報を伝える、そういう目的の反射板なのでした。
◆ところで、この直角に交差する鏡の原理はいろいろな場面で使われています。(コーナー・ミラーというよびかたもあります。)
★アポロ宇宙船が月面に置いてきた鏡は、この交通標識と同じ、「直交する3枚の鏡」方式のものです。ですから、地球上のどこからレーザー光線を送っても、必ずそのレーザー光線を送ったところへ光を返してくれるのですね。それによって、月は1年に3.8cmずつ地球から遠ざかっていることが分かったのです。
(月面に鏡を置いても、地球に光を送り返すように正確に角度を設定できるわけがない、だからアポロは月に行っていない、などということを主張する人もいたようですが、単に自分の無知をひけらかしただけでした。)
★サイド・ルッキング・レーダーというものがあります。巡航ミサイルなどが積んでいます。自分の進行方向にレーダー電波を照射するのではなく、進行方向の両サイドへ電波を出すのです。すると地形のうちで、直角に近い角度をなしているものからは強く電波が反射してきますので、それを使って地形を知るのです。
都会のビルディングなどは非常によく電波を反射して戻すことになりますね。
海底の地形探査でも、真下に超音波を出すのではなく、脇に向けて超音波を出してその反射をうけると、海底地形のでこぼこがよく分かります。
★ステルス戦闘機なるものがあります。あれは、機体面が電波を反射しにくい材質を使っているのでしょうが、それに加えて、翼と機体の交差角度が直角にならないように、必ず鈍角になるように設計されているのです。直交する鏡は電波を来た方向へ戻しますから、その逆手を取っているわけです。なんとなく普通のジェット機と印象が違って異様な雰囲気を与えるのは、この設計方法がなじみのないものだからかもしれません。
◆私のホームページ「理科おじさんの部屋」で、小学生のU君とやった光の反射の実験を紹介しています。関心がおありでしたらぜひどうぞ。
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