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2008年11月17日 (月)

ウジ

◆これ絶対不評だと思います。苦手なかたはパスしてください。

◆ショウジョウバエ
1104syoujoubae1 カタツムリを飼育していたら、餌にショウジョウバエが産卵して繁殖してしまいました。

出会ってしまったものは仕方ない、観察してしまおう、というのが私のスタンス。
これ、いわゆる蛆です。ショウジョウバエのウジですから、小さなものです。2mm程度でした。

よく見ると、頭から2本の白い線が体内を走っています。これ、よく分からないのですが神経系じゃなかろうか?

しかしまあ、こういう小さいものを研究材料にして遺伝学をやるというのは、眼がよくないといけませんねぇ。近眼で乱視でそこへ老眼が加わった私の眼だと、思わず、すごく接近してしまいます。楽しくはないなぁ。

1104syoujoubae2 こちらはもう蛹になったものですね。

蛹の殻が輪に割れて成虫が出てくるのが「ハエ」の基本形。
蛹のからの背中が縦に割れて成虫が出てくるのが「アブ」の基本形です。

私自身はそこまで観察したことはないのですが・・・。
チョウはずいぶん見たけれど、ハエは積極的に飼育しているわけではないし。

◆(多分)センチニクバエ

1104uji ハネカクシの写真をお目に掛けました。あれは、猫缶にやってくるハエをカマキリのエサにしていて、たまたま見つけたものでした。

ここにご紹介するのは、チビドウガネハネカクシを撮影した時に、一緒に写っていたものです。

大型のハエの幼虫ですから、大型のウジです。1cmくらいもありますね。

昔、日本のトイレが汲み取り式だった時代には、いくらでもお目にかかったものですが、最近は見なくなりました。きっと知らない方も多いでしょう。(ちなみに、私が育った家庭では、トイレのことは「ご不浄」と言っておりました。これも死語でしょうね。)

◆マゴットセラピー

 ハエのウジはやはり相当に不潔なところで成長します。不潔ということはウジにとっても危険な状況ではあるわけです。ヒトの免疫とは違いますが、ウジも身を守るために、殺菌作用のある液を出したり、消化管内でも殺菌しているわけです。この性質を利用したのが「マゴットセラピー」という治療法です。

人が学ぶ 昆虫の知恵」 普後 一 著、東京農工大学出版会、2008.5.7 初版発行

この本から引用します。

 マゴットセラピーとは、ハエの幼虫(マゴット)を用いて傷の治療を行うもので、最近注目されている治療法の一つです、戦争による傷病兵の中で、傷口にウジが湧いた者の方が、治癒回復時間が短くなるといった報告が相次ぎ、この治療法は、世界大戦期までの欧米で広く普及していました。
 しかしその後は、抗生物質の普及や外科手術の発達によって衰退を辿りますが、1980~90年代になると抗生物質の多用による薬剤耐性菌:MRSAの出現や難治性創傷の増加とともに、再び脚光を浴びるようになりました。2007年現在、世界35か国で難治性創傷の治療に取り入れられ、わが国でも2004年に初めて治療が行われています。
 治療に使われるハエは、クロバエ科に属するキンバエの一種で、全世界の温暖な地域に生息しています。中でもヒロズキンバエは、マゴットセラピーに適した安全な種として、世界的に最も多く使用されています。
 傷口に移植された幼虫(ウジ)は、まず自分が持つタンパク質分解酵素を分泌して壊死状態の組織を溶かし、次にそれを吸い上げることで壊死組織を除去します。このタンパク質分解酵素は、健全な組織を融解することはないため、壊死組織だけが選択的に取り除かれます。また幼虫の分泌液の中には、様々な抗菌作用を示す物質が含まれていて、この物質がMRSAなどの薬剤耐性菌を含む病原菌に対する殺菌作用をもちます。
 さらに幼虫は、様々な病原菌を含んだ創融解液を吸い上げて、消化管内で殺菌します。こうした一連の過程で、壊死組織が取り除かれて殺菌されるだけではなく、肉芽組織も非常に速く再生されます。
 マゴットセラピーは、治療侵襲が少ない、麻酔を必要としない、従来の治療(抗生物質、外科治療法)に比較して安価、治療法に長い歴史と十分な実績報告があり、その効果は証明されている、といった長所があります。
 ただその反面、治療部位周囲の皮膚痛や刺激があり、腸管や血管壁が壊死に陥っている場合、腸管穿孔や出血をきたす可能性があります。また一部の細菌には効果がなく、人体にマゴットが寄生することに対する嫌悪感などの欠点もありますが、これらは確実な治療体制を取っている病院では慎重に対処されます。なおこの治療法には、健康保険が適用されません。

「身近なムシのびっくり新常識100」森 昭彦 著、サイエンス・アイ新書、ソフトバンククリエイティブ、2008.5.24 という本によりますと

 正式な記録はナポレオンの従軍外科医ラヴレイによる1799年のもので、戦場に長く放置され、傷口にウジがわいた兵士の方が、ただちに応急処置を受けた兵士よりも快復の可能性がずっと高いことを観察した。

とありました。

また、去年の朝日新聞の記事にこんなのもありました。ご紹介します。

「ウジ虫で治療」都ベンチャー大賞:文京の医療関係会社に(2007/10/26)
 新技術や商品開発に取り組むベンチャー企業を表彰する「都ベンチャー技術大賞」の表彰式が25日、江東区の東京ビッグサイトであった。ウジ虫を使い、壊死した部分を治療するバイオセラピーメディカル社(文京区)が大賞を受賞した。
 8回目の今回は115社の応募があった。大賞を受賞した企業は賞金300万円がもらえるほか、販路の開拓や低利融資など都の支援を受けられる。
 バイオ社は、ウジ虫が腐った組織だけを溶かして吸収する性質を利用した糖尿病による足の壊死などの治療法「マゴットセラピー」を広めるため、飼育したウジ虫を販売するだけでなく、病院と連携して、診療料金の設定からウジ虫の保存、処分法、患者の副作用対策までをシステム化した。
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[探究人]日本医大病院再生医療科部長・准教授:宮本正章さん(48)(2007/12/24)
 糖尿病や動脈硬化で血管が詰まって、組織が腐る壊疽。それをハエのウジ(マゴット)を使い、切らずに治すマゴットセラピーに取り組む。昨年起業した大学発ベンチャーは10月、東京都のベンチャー技術大賞に選ばれた。
 無菌培養したウジを傷の周辺に置くと、2~3日のうちにウジが壊死した組織を溶かして食べる。ウジの分泌液には、殺菌効果や組織の再生を促す作用があることが知られている。
 欧米から導入を考えたのは数年前。ウジを輸入したのでは高くつく。国内で生産しようと海外の文献を調べたが、ウジの種類までは書かれていなかった。
 ハエは日本だけで3千種とも言われる。まず手に入れたのは、トイレにもいるセンチニクバエ。だが卵に消毒液をかけると、生まれたウジが小さかったり、元気がなかった。濃度を変えても失敗続きだった。
 実はウジには卵胎生と卵生の2種類があり、センチニクバエは卵胎生。卵生のヒロズキンバエを試したらうまくいった。
 5月、全国に先駆けて新設された再生医療科の初代部長に就任した。マゴットセラピーだけでなく、自分の骨髄幹細胞を使った再生医療などにも取り組んでいる。「臨床では症状悪化の原因も複合的。治すために、いろいろな方法、新しい方法にも挑戦していきたい」

というわけなんです。ハエのウジもまんざらではない。

日本では戦争関連の手記などで「傷口にウジが湧いた」というとただひたすらに悲惨な情景の描写でしかないようですが、実は生存率を上げていたのかも知れませんね。

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