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2008年11月11日 (火)

他者

2008.11.9付 朝日歌壇より
我の中にあって我ではないことを教えているかのような悪阻(つわり)よ:(調布市)西野千晴
 高野公彦 評:胎児は自分の肉体の一部ではなく、一種の異物であり、他者なのだ、という発見。痛切な歌である。

私は男性ですから、つわりそのものを追体験はできないのですが、生物学にもすこし顔を突っ込んだ人間としては、この逆の面も考えて欲しいな、と思います。

母親にとって、胎児は自分そのものではないと同時に、胎児にとって母親は自分ではない、ということです。

胎盤のところで栄養をもらったり酸素をもらって二酸化炭素を渡したり、尿の成分を母親側に渡して処理してもらったり、しているわけで、決して「血がつながって」はいないということは周知のことだと思います。
それでも、免疫的に母親から攻撃を受けることはあるわけで、そうなってしまったら母親の力は圧倒的に強い。胎児は母親の免疫攻撃から身を守らなければならない。これは免疫の不思議です。

受精卵が子宮に下りて来た時に、肥厚した内粘膜が微小な受精卵を検知できると思いますか?無理でしょ。
受精卵は消化酵素を出して内粘膜に食い込み、ホルモンによって母親側に、自分は着床したぞ、生理になって内粘膜をはがし落してはいけないぞ、と知らせているのですよ。

そういう母親と胎児のせめぎ合いというものがあるのです。

私は受精卵の時から「人」だと思っています。

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崩彦俳歌倉」カテゴリの記事

コメント

今回も、ずいぶん考えさせられました。

「向こうの人」でも、コメントを書かせていただきたかったのですが、いえ、全てにコメントを書きたいこともあるのですが、かかし先生がとても丁寧にレスくださるのを知っているだけに、書きたいことの10分の1くらいで抑えています。

コメントは、聞いた話しです。
うちの子供が幼稚園のとき、ある方から聞いた話です。

流産ばかり。
せっかく妊娠しても、どんなに大事にしても流産。
夫ががっかりする。それが、いや。
私だって、傷ついているのに。
赤ちゃんが、よその子供が憎い。かわいくないを通りこして、憎いの。そんな時期もあった。
本当に、つらかった。
それで、検査したら、卵管が少しだけど癒着気味だってわかって、通すためにガスを通したのだけれど、あんなに痛いのは、経験したことがない。
気絶するかと思った。
でも、それでも流産するの。治療したのに。
もっと詳しく検査したら、私の免疫体が夫を、子を、「異物」と認識して攻撃するかららしいとわかって、私の血を全部、夫の血に総取替えしたのよ。
そうしたら、やっと流産しないで、子供を妊娠できた。産むことができた。

でもね、もう、一人でいい。
本当につらかったから。


自分を守る免疫体なのに、そんなこともあるのかと、忘れられない話です。

おなかの中で、進化が、何億年かが、10ヶ月ですすむ、この神秘。
私の知人には、不妊で10年、体外受精という人もいます。
たくさん子供が欲しくて、と4人の子持ちも。

私も、かかし先生に賛成です。「命」として存在したときから「人間」なのだと思います。


 あまり踏み込んだことは書けません。「現代化学」という雑誌の9月号、「免疫のしくみをめぐって」という連載の17回目がちょうど「胎児はなぜ移植拒絶免疫を受けないのか」という話でした。図のタイトルをちょっと書きます。

・HLA抗原の表出低下による免疫反応の回避
・アポトーシス・アネルギー誘導分子の表出によるT細胞の反応阻止
・免疫抑制物質の産生による免疫反応の回避
・免疫抑制細胞の増加によるT細胞の反応抑制
・HLA抗原に対する抗体によるHLA抗原へのT細胞の反応の遮断

何重もの仕組みによって胎児に対する母親側の免疫的な攻撃が起こらないようにはなっているのです。
骨髄移植などでは主要組織適合抗原HLAが一致することが必要ですが、妊娠においては、妻と夫のHLA抗原が近いと流産しやすく、異なっている方が妊娠が維持されやすいのです。
難しいものですね。

受精卵が着床に成功して発生過程を始められるという確率もかなり低いものです。

受精卵は自力で生きています。親はその生きる力を支えることができるだけです。
誕生した赤ちゃんも自力で生きているのです。

この基本的な認識がしっかりしていれば、世の中の不幸はずいぶん減るような気がするのですが。

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