Keep your options open.
2008年10月6日付朝日歌壇より
デジカメを買わんと選ぶ息子の目選べばほかを失う苦に居る:(茅ヶ崎市)相沢孝七
この歌には深刻な意味が含まれているようです。
◆一つは、買い物の心理学なのですが、いろいろ選んで迷って買ったものの方が不満足度が高いという妙な心理です。「あとをひく」のですね。「あっちの方が良かったかなぁ、もっと見ればよかったかなぁ・・・」ですね。モノが豊かになればなるほど、不満が募るという、ヒトの欲望の果てしなさ、でしょうか。
出会いがしらに「気にいった!」と衝動買いした方が満足度は高いようです。
◆もう一つは、「選ぶということは捨てるということだ」ということです。
これは、実は現在ひどく切羽詰まった深刻な事態だと私は思っているのです。
教職にあったころ、よく生徒に「キープ・ユア・オプションズ・オープン」という言葉を示して話をしました。
現代では、小中学生のころから、「夢を持て」「夢はかなう」などと吹きこまれて、たまたまちょっとかすっただけのものが「自分の夢だ」などと思いこみ、夢の実現に役立たないものは一切いらない、役立つことだけをしたい、などと思いこんでしまうことが多いのです。幼いころ、若い時は無駄を一杯積み重ねることが重要だ、などということは通用しなくなってきました。
視野を狭くして、ひた走り、ちょっとの失敗で全人格が傷ついたように思いこみ、叱られ弱くて、失敗に弱くて、「もし本当の自分があらわれたらこんなもんじゃない」などと自分を偽るしかないなんて、悲しいことです。
今いる自分が本当の自分なのに。自分探しなんて無意味なことです。
何かを選択するということは、何かを捨てることです。いずれ人間生きていくうちには、どんどんいろんなものを捨て、何かを選択せざるを得ません。若い人は、可能な限り選択肢を全部保持したまま生きていくべきです。そう、いずれは選択せざるを得ないのですから。
10代の後半から20代のはじめの頃に形成した「夢」が、人生の中で直接かなうなんて、それはウソです。夢がかなった人が「夢はかなう」なんていうのを聞いて真に受けてはいけません。かなわなかった人の山のてっぺんに、かなった人が一人いるだけなんですから。
じゃあ、夢を持つことは無意味なことなのか?いえいえ、全然そうではありません。年を重ねた大人のごまかしのように若い人には聞こえるかもしれませんが、実は、夢はかなわないけれど、夢を軸とした生き方は誰にでもできるのです。
60歳にもなって振り返ってみると、高校生から大学の初めのころに考えていたことが私の人生の軸になっていたことがよくわかります。なんだ、俺って全然変わってねぇなぁ、と苦笑します。
人生の出だしのころ、夢や希望を育てましょう。それがかなわなかったからって、負けなんかじゃないのです。勝てなくったって負けない、という生き方もあるのです。振り返ってみると、自分の人生は、あの夢を軸としてぐるぐる回って出来上がってきたんだなぁ、と必ず後日思えます。
これは大人として保証できます。
こんな話を、生徒によくしたものでした。
選択肢は可能な限り広く保持しておきなよ、と、今も言いたいと思います。
◆2008年10月6日付、朝日新聞[あの人とこんな話] に、こんな話が出ていました。
若くしてキャリアを限定するな 人生観は変わるものだ
東京大学 知的資産経営総括寄附講座 特任教授・妹尾 堅一郎さん
・・・「自分を正当化するわけではないけれど(笑い)、キャリアをもっと自由に考えていいと思う。若いうちから一つに決めてしまおうとする人がほとんどだが、それでは他の可能性を切り捨てることになる。もちろんその場で全力は尽くせ。でも、ワクワクする場所があるなら飛び込めばいいんです。そこで自分がどう変わるのか。それが人生の楽しさじゃないですか」・・・
そう、重要なことはたった一つ。常に全力を尽くして、常に正面衝突すること。
これだけです。全力の正面衝突を回避して、斜に構えて事態を回避したら、残るのは悔いだけです。
自分の人生に対して「もし」という仮定法を使わないでください。それをやったら、人生おしまいですよ。1歳でポリオにかかり、「もし自分がポリオにかからなかったら」と言いたくなりそうな人生の出だしでしたが、高校生のころかな、「ポリオにかかったことも含めて、これが私だ」と言えるようになって楽しい充実した人生を送ってきました。
人生の先輩の言うことは、うるさいけれど、耳にはさんでおいて損はありません。
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