アブラゼミの羽化
8月1日、夕方です。妻が家の外壁を歩いていたセミの幼虫を連れてきました。
庭に転がっていたボウガシの木の切れ端をバケツに立てて、そこにつかまらせました。
しばらく歩きまわっていましたが、やがて少しオーバーハングに傾いたところにつかまってじっとするようになりました。その時の写真がこれ。6時40分ころのことです。
しばらくテレビのニュースなど見たりして、7時半ごろに見たら、ちょうど羽化が始まったところでした。
複眼はもう黒々としていますから、光を吸収しています。やはり視覚は大事なのでしょう。濡れて白っぽいということはありません。単眼も見えています。
前脚はまだ抜けきっていません。
体をそらしていきます。
口をよく見てください。先端が2本に分かれているように見えます。チョウの口と同じく、左右両側から合わさって1本の管になるのでしょうか。
脱皮というものは、幼虫時代の「表皮」をすべて脱ぐのですから、口から始まる消化管の表面も脱ぎます。また、体内に先端の閉じた管として入っていた気管も脱ぎます。抜けがらから「白い糸」のようなものが出ていたら、そのようなものの抜けがらだと思ってください。
針状の管である口の先端にも白い糸がついていますね。これは幼虫時代の消化管の内面でしょう。
分からないのは、前翅の付け根付近から出て、先へ行くと太くなる白い糸です。
この位置で、脱ぎ捨てるべき表皮というとなんなのかなぁ?
ちょっと、わかりませんでした。
成虫の腹部の先端は、幼虫時代の後脚の辺りまで出てきているように思えます。
何かの引っかかりがなければ、どうみたって落っこちそうです。
どうやって体を支えているのでしょう?
天使の誕生!です。
ため息が出るほど美しい時間(とき)です。
まだしわくちゃで白っぽい翅に緑色の筋が見えますがこれは「翅脈」です。やがてここへ体液を圧送して翅を展開することになります。
腹部の先端が見えます。どのようにして体を支えているのか、やはりわかりません。
脚の付け根の辺りから伸びている白い糸は気管が裏返しになったものではないでしょうか?
この白い糸が体を支えているのでしょうか?
ここまでは一気に進んできたのですが、この状態でしばらく脚を乾燥させます。まだ、湿っていてやわらかく、起き上がっても体を支えることができないからです。
脚が乾燥したのでしょう。
幼虫時代の触覚の辺りにかけた前脚、これが大事なのです。ここが滑ってしまったら、落ちてしまいます。
前脚ががっしり抜けがらをつかんでいます。
腹部の先端は交尾器なのでしょう。
あまり普通は見ることのない部分です。
想像にすぎないのですが、この交尾器の部分を使って「白い糸を把握していた」ということはないのでしょうか?
「把握」でなくても「引っかかる」だけでもいい、そうやって、ぶら下がった体を支えていたのではないか、そんな想像をしました。
おそらく腹部の筋肉を緊張させて体液の圧力を高めて圧送しているのでしょうが、外見的にはとても静かです。
単眼がフラッシュを浴びて輝いています。
腹部先端の交尾器も伸びています。
胸部の茶色が少しずつ濃くなってきました。
このとき、翅は平面的に開いています。
4枚の翅が同一平面上にある、という感じですね。
この個体、産卵管がありませんからもちろんオスですが、オスとして鳴くときに音を響かせる腹部上端の板が見えています。
「腹弁」というのだと思います。
メスにも小さくありますが、オスは大きな音を響かせられるように大きな板になっているのです。
これで体形は成虫としての完成形にたどりついたようです。
どうして最初からこの屋根型にしないで、いったん平面型に展開してから屋根型にするのでしょう?
よくわかりません。
あとは、翅を含めて体全体をよく乾燥させることだけです。
この時点では、体重は前脚2本で支えてぶら下がっています。ぶら下がりは大丈夫ですけれど、もし地面にでも落ちて歩かなければならなくなったら、まだちょっと柔らかくて曲がってしまうのではないかとも思います。
ちょっとほっとして、一息ついて、お顔拝見。
ちょっと愛嬌のある顔ですね。
ここまできても、やっぱり天使ですね。
屋外での羽化で、この全く動けない状態のときに、アリに見つかると致命的です。体は柔らかいし、逃げられないし、アリはそういう意味では「獰猛」ですからね。
この写真の時点で8時20分ころです。
50分間くらい、床にべったり座って、かがみこんだり転がったりしながら観察し写真撮影してきたら、さすがに腰が痛い。
翅も大分色づいてきたし、後は乾燥するだけですから、これで妻と二人の観察会を終了にしました。
以前、ミカンの木でアブラゼミが羽化するところを、夫婦二人で屋根の上に座り込んで観察したことはあったのです。妻はセミの羽化を見るのはその時が初めてだったといいます。
その時は、かなりの距離があって、様子は見えましたが、とても接近できる状況ではありませんでした。
今回、全くの「眼の前」で観察できて、本当にうれしく楽しかったです。緊張しました。ここまでたどり着いてくれてほっとしました。かなり気分はハイになっていたようです。
もし、私たちの観察が余分な介入になっていて、羽化を失敗させてしまったら、悔やんでも悔やみきれません。
でも、よかった。ありがとう。
◆翌朝の写真を最後にお目にかけます。
もう一回、お顔拝見。
いい顔してるなぁ、って、昆虫に向かって変ですか?
何年もの長い間、地中で生活してきて、ほんの数日間、生殖世代を生きるわけです。
一生の大部分を過ごす形態が「大人」のような気もする。
大人の生活の最後に「生殖の時間」が来たのでしょう。一生懸命生きて、生殖して、子孫を残してください。なんだかこう、感情移入してしまいました。
連れてきたのが妻ですから、妻の手で、外へ放してやりました。強く羽ばたいて木の間に消えていきました。
元気でな、頑張れよ。
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