◆いわゆる「ツヅミミノムシ」です。邦楽に鼓という打楽器があります。真中が細くなった打楽器。あれに似ている、ということですね。
6月7日、土曜の朝、のんびりと新聞を読みおえて、新聞をたたんで脇に置いたら、テーブルの上にツヅミミノムシがいるではないですか。
妻に、「これ連れてきたのかい?」と聞いたら、「知らないわ」。「へぇ?なんで、どうして、ここにいるんあだぁ?」とまぁ、大騒ぎ。新聞にでもくっついてきたのでしょうか。
ツヅミミノムシを見るのは久しぶり。でも、新聞の下になっていたのですから、つぶしてしまったのではないだろうか、と心配しながらティッシュの上に置いて眺めていました。
すると、何と、生きていて、端っこから幼虫が顔を出し始めたのです。席を立っていた妻を、大慌てで呼び戻して、二人で観察し始めました。
上の写真でも、左側にちょっぴり顔をのぞかせているのですが、わかるでしょうか?
同じ写真を拡大してみますね。いかがでしょう?
左端に顔を出していますね。同時に、「ミノ」の材質も見てください。
どうも、樹皮か何かをよくかじって細かくして作ったものではないでしょうか、そういう質感です。
さて、眺めていると、左から顔を出して、顔を引っ込めた次の瞬間、今度は右から同じような色の「先端」を出すんですね。二人して、これは頭を引っ込めて、次はお尻を出して、どちらでも外界の様子を探ることができるのではないか、と考えました。
左の写真を見てください。2枚並べてあります。写真の中に矢印で示したところが、ティッシュの上の黒い点状のしみです。つまり、この矢印を見る限りミノ自体は動いていないことが確認できると思います。
その上で、ミノの端を見てほしいのですが、左の写真では左に、右の写真では右に、「体の端」を出しているのが分かると思います。
とても速いんです。ですから、ミノの中で体を反転させているとは思えなかったんですね。そこで、頭と尾端を出しているのではないか、と推測したわけです。
でも、それは間違っていました。
◆先に、ネットで検索した結果を書いておきましょう。
正式な名前は「マダラマルハヒロズコガ(斑丸翅広頭小蛾)」です。なんとまあ、安直というかすごい名前をもらったものです。
普通のミノムシはミノガの幼虫ですが、ツヅミミノムシおよびその成虫はヒロズコガ科だそうです。
成虫の写真を見ましたが、とても地味で、成虫を見て「これはマダラマルハヒロズコガだ」と判定するのはとても無理です。幼虫はこの独特な形で、一目で「ツヅミミノムシだ」とわかりますけれどね。
◆調べたサイトの中で、↓ここに外側の覆いを開いて中を見てしまった写真があります。
http://homepage3.nifty.com/matsumaroom/child/insect/tsuzumiminomushi_01.html
ここの写真によると、幼虫の体で色が濃いのは頭から胸部にかけてまでで、腹部は淡い黄褐色です。
私たちも、この写真のように、頭部とそれに続く3つの体節までが濃い色で、それ以降は明るい色であることは観察していました。ただ、ツヅミを開けてしまうことは私たちにできることではありませんので、腹端部がどんな色であるかは分かりませんでした。ですから、ツヅミの中で向きを変えているとは思わなかったのです。でも、上のサイトで腹部は端まで淡い色であることが分かりましたから、いかに瞬間的とはいえ、ツヅミの両側に出てくる色の濃い部分はどちらも頭部であると結論せざるを得ません。
しっかしまぁ、超速ですよ、この幼虫のターンは。どうやってこのツヅミのなかで向きを瞬間に入れ替えているのか、やはりナゾです。
もう一回、体を乗り出しているところを見てやってください。
これで、頭部、胸部の全部が出てきています。
見ていると、はたで声をかけてやりたくなるようなかわいらしさでしてね。
おもしろいんだ、これが。フラッシュにびっくりして引っ込んでしまうときもありますし、特に何も感じていないときもあるのです。わぁ、ゴメン、などと声をかけつつ、眺めていると、なんだかいつの間にか、前進していたり、ツヅミの向きが変わっていたりするのです。
なんだぁ?と眼を離さず眺めていると・・・
ここでも、ティッシュの上の目印となるしみの位置に矢印を書きこんであります。
この矢印とツヅミの位置関係を見ればお分かりでしょう。
まず、体を外へ乗り出して、肢で体を外に固定し、(おそらくツヅミの中で腹部をツヅミに固定してあって) 体を縮めることでツヅミを引き寄せるのです。
ミノムシの場合は、ミノを背負ったまま歩いていきますが、ツヅミミノムシの場合はシャクトリムシ方式とでもいいましょうか、体を伸ばしては縮めるという動作で、ツヅミを引き寄せ引き寄せ移動していくのでした。
また、向きを変えるときはこうやります。
体をひねって乗り出しておいて固定し、体をまっすぐにすると、ツヅミの向きが変わるのですね。
よっこらしょ、とはたから声をかけてやりたくなるような動作でした。
そんなこんなで、眺めていたら、1時間もたってしまっていたのでした。
いやぁ~、面白かった。
◆ところで、このツヅミミノムシにはちょっと思い出があります。
ツヅミミノムシという昆虫の存在を知ったのは大人になってから、それも子育てに入ってからのことなのです。
福音館書店の、月刊かがくのとも の160号「おみやにいったらむしがいる」という本で知ったのでした。文は日浦勇さん、絵は高橋きよしさんです。(1980年7月号)
「かがくのとも」という雑誌は素晴らしい本でして、子らが幼い時から小学校を出るくらいまでずっと購読していました。
「おみやにいったらむしがいる」というのも大好きで、家族旅行にこの本を持っていき、実際にこの本を持ってお宮に行ってみたりもしたのです。
この本でツヅミミノムシというものを知って以来、眼がパターンを認識できるようになり、時々見つけては「お~、いたぁ」と喜ぶようになったのでした。
でも今回のように、じっくりとひたすら眺め続けたのは初めてのことでした。20数年をかけて持続してきた観察と言ってもいいと思います。
いや、ありがとう。
◆翌、日曜日、仕事が休みの娘にこのツヅミミノムシを見せたら、早速写真や動画をとって、自分のブログに載せておりました。彼女もツヅミミノムシがなつかしかったようです。
私たち夫婦は、さしあたって人参の切れ端を入れておいてやったのですが、彼女は、「樹皮の地衣類などを食べるのではないか」という記載を読んで、早速、庭の木の皮のボロボロになったところを少しはぎ取ってきて入れてやっていました。しばらく飼ってみようと思います。