せっかく、カテゴリーを立てながら、なかなか書けません。「コメントつけなきゃ」という思いが書きづらくしているようです。今回は、2月11日の朝日歌壇・俳壇から、私が選んだ歌や句を一挙に並べてしまいましょう。「選ぶという行為」自体が「私の眼」を提示しております。コメントしたいものには小さな字でコメントをつけておきます。
[朝日歌壇から]
大寒の亀孤独なり飼い主の六年生は中学受験日:(四万十市)島村 宣暢
亀との散歩の歌をご紹介しましたが、今回は亀さんが遊んでもらえなくてひとりぼっち、という歌です。そろそろ、入試も終わったでしょうか。
悟り得ぬ身でありながら成仏をしたる死人に引導渡す:(三原市)岡田 独甫
やさしさをスケッチできず溜息をつけば地蔵さん微笑んでおり:(いわき市)馬目 弘平
いかにもお地蔵さんという感じですね。私が名乗っている「かかし」にもそういう性格を付与したいと願っているのです。道端に立ち、人々の喜び悲しみに立ち会う地蔵・かかし。救うなどというたいそうなことはできませんが、せめて、立ち会うことができれば、と願うのです。
マンションの最上階で見る雪は落ちゆくものの表情をせり:(奈良市)森 秀人
上見れば虫コ、中見れば綿コ、下見れば雪コ・・・。マンションの最上階ともなれば、虫コと、綿コしか見えないでしょうね。それは、地上で見る雪とは違う様を見せるのでしょう。
雑貨屋が取り壊されて馴染んでた松山容子の看板も消ゆ:(西海市)前田 一揆
この歌を読んで、にやっとした方は、ある年齢以上の方だと想像いたします。知らない人は全く知らないでしょう。私が妻に読んで聞かせたら「アハハ、あの看板知ってるわ」と笑っておりました。団塊世代の同年齢夫婦であります。記憶では「ボンカレー」でしたよね、たしか。「菅公の学生服」という看板もあったけなぁ。
子の歯型眼鏡ケースにつきたるを眼鏡屋の問う犬ですか猫ですか:(奈良市)田上 淳子
歯が生えてきた赤ちゃんは、歯茎がむずがゆいのですかね、なんでもかじりますよね。最初の歯、というのは本当にガラス細工のように透明で繊細なものでした。なつかしい。ところで、猫にも乳歯というのがあるのをご存知ですか?
両ひざに人工骨入る妻篤子筋金入りの篤婆(ばば)となる:(福井市)観 正一
ひたすらな念(おも)い美し受験生の鋭(と)く削られし鉛筆の芯:(上越市)三浦礼子
ほかほかとおからの山が湯気を吐き豆腐屋の爺は今朝も元気だ:(調布市)車 真木
いかにも元気そうだ。いかにもおいしそうな豆腐だ。素人が豆腐を作ると、豆腐もおいしいのですが、おからがおいしいのですよ。プロのおからは出がらし。素人のおからは栄養たっぷり、です。食品化学と称して、いろいろ作りましたっけ。豆腐、パン、うどん、味噌、カッテージチーズ・・・。おいしかったなぁ。
渦巻きておのれ自ら飲み込めり鳴門うず潮かくも恐ろし:(川崎市)三浦 太圭志
渦を見つめると「魅入られる」というのか、引きずりこまれそうになります。「自らを飲む」という言葉は「ウロボロス」を思い起こさせます。自らの尻尾を飲み込んでいく蛇がウロボロスです。どうなってしまうのでしょう?消滅する?(故中島らも氏は「輪になったウンコが残る」とのたまわれましたっけ。)
函館の煉瓦倉庫に売る各種ガリレオ温度計温度が揃う:(八王子市)相原 法則
寒いのでしょ?函館ですから。ガリレオ温度計の中の球は全部浮いてしまっている、という形で「揃って」いるのかな?それとも倉庫の中は暖かくなっていて、全部の球が同じようにちゃんと温度を表示しているのかな?よくわかりませんでした。なお、ガリレオ温度計はガリレオが発明したものではないと思います。詳しくは私のホームページをお読みください。
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/freestdy/G_Thermo.htm
[朝日俳壇から]
静寂はラグビーボール立ててより:(静岡市)松村 史基
私はほとんどのスポーツに関心がありませんが、ラグビーだけは大好きです。深い角度から慎重に蹴る瞬間の緊張感はいいですね。楕円球だという「へそ曲がり」が好き、ひたすら前へ進むのに、ボールを前へ投げてはいけないという「へそ曲がり」が好き。冬はラグビーに限ります。
仮の世と言へど嬉しや猫の産:(長岡市)内山 秀隆
赤ん坊というものは、昆虫から魚、鳥、哺乳類、みんなかわいいですね。なかでも哺乳類、とりわけ肉食性の哺乳類の赤ちゃんのかわいさは、たまりません。母親の強烈な闘争能力とは対照的に、身の安全などというものはすべて親任せにして、ひたすら好奇心に輝きますね。あれがいい。(好奇心を失ったら人間もおしまい、店仕舞いした方がいいですよ)。ころころ遊んでいたと思うと、パタっと所かまわず眠りこんだりして。頭でっかち、おなかでっかち。子犬子猫にころころされるともう、かなわないなぁ。
ダム湖ゆく鴨に歩幅を合はせけり:(東村山市)高橋 喜和
雪の夜のいのちを運ぶ救急車:(岡山市)光畑勝弘
ご時勢としては、受け入れてくれる病院がありますように、と祈るほかありません。なんだか、窮屈な世の中だなぁ。音もせぬ雪の夜、救急車の音はせつないですね。
愛らしや小便小僧の氷柱とは:(大津市)高橋 素子
そりゃたいへん。おしっこが凍っちまったのか。凍傷になりませんように。
ニトロ抱く妻を狙ひて豆打ちぬ:(洲本市)高田 菲路
[金子兜太氏の評]敢えて「ニトロ抱く」と言う。病む妻を労わる諧謔。
「ニトロ」ということは狭心症を患っておられるのでしょうか。ニトログリセリンですね。舌の下にはさんで血管に直接吸収させたり、皮膚に張って徐放させたり、ニトロ基が一酸化窒素に変化して、血管を緩める作用をします。おそらくは、胸の「鬼」が退散しますよう、という願いなのではないでしょうか。夫婦というものも切ないものです。