「かぐや」打ち上げ
月探査衛星「かぐや」が先月9月14日にH2Aロケットで打ち上げられたのは、ご承知のことと思います。
私は、その打ち上げシーンをJAXAのライブカメラで見ていました。すると、とても面白いことが付随的に起こっていましたので、お気付きでない方も多いのではないかと思い、ご紹介しましょう。
これは発射台の上のH2Aロケットです。ロケットの先端部付近の形を覚えておいてください。
上昇を始めたところ。ロケットの先端付近ですが、まだ何も起こっていません。
おや?ロケットが帽子をかぶり始めましたよ。
完全に白い帽子をかぶりました。
これは当日昼のNHKニュースの画面の写真。やはり帽子をかぶった姿が写っていますね。
この白い帽子は何なのでしょう?
俗に「音速の壁を突き抜ける瞬間」というものなのですが、音速に達する前から見え始めると思います。
ロケットの先端部が空気を猛烈に圧縮します。すると、当然、その圧縮部の後ろ側には逆に猛烈な膨張がもたらされます。
熱のやり取りをするひまのない膨張を「断熱膨張」といいますが、気体が断熱膨張すると温度が下がります。(エアコンや冷蔵庫の冷却の原理もこれです。)
湿り気をもった空気の温度が急激に下がると、水蒸気が気体でいられなくなって水滴=雲になります。
この雲が、上の写真の「白い帽子」なのです。ロケットが加速して、音速に間もなく到達するぞ、というときからこの「白い帽子が」現われたというわけなのです。
★高校物理で、「ドップラー効果」というのを音の授業でやります。
左は音源が静止しているときのイメージ。真中は音源が右へ向かって移動しているときのイメージ。移動の前方で音の振動数が増え、後方で振動数が減ります。前方では音が高く聞こえ、後方では音が低く聞こえるということです。救急車のサイレンなどがよく例にひかれます。光であるなら、観測される遠方の星のスペクトルが「赤方偏移」している、つまり観測者から遠ざかっている、つまり宇宙は膨張している、という話に出てきますね。
右端の図は、音速で移動するときです。移動物体の前面に全部音の波面が集中しますね。これが「衝撃波」です。いわゆる「音の壁」です。このとき、移動物体の前面は、猛烈な圧縮部分になり、そのすぐ後ろで猛烈な膨張が起こるわけです。
これが上でお話しした、白い帽子=雲の帽子ができる原因です。
音速を超えると、衝撃波面は円錐状になります。この円錐面が地上に届くと、地上でその強烈な圧縮と膨張が起こりますので、家のガラス窓が割れたりもします。ですから、ジェット機が音速を超すのは、人家のないところの高空で、に限定されます。sonic boom といって、爆発音のような音が聞こえます。
船の航跡がV字型になっていることがありますね。あれは、水面の水の波の速度より速い速度で船が走るときにできる一種の「衝撃波面」です。水鳥が泳いでいてもV字型の航跡ができますね。「超音速水鳥」なのです。
水路の水面に、斜めの筋が走ることがあります。あれは、逆に水の方が水面の波の速度より速く流れるためにできる一種の「衝撃波面」なのです。
台所の流しに水道の水を細く絞って流すと、円形に広がって、円形のふちが盛り上がっていることがありますね。あれは、流しの面を広がる水の速度が水面の波の速度を上回っている範囲なのです。縁のところまで流速が落ちて行って、ちょうど縁のところで流速と波の速さが等しくなっています。
津波が陸にあがって、奥へ走りあがっていく時に、同様のことが起こって、波の速さより水の流れが速い部分の先端が「衝撃波」になり、激しい破壊力を発揮します。
星間ガスの中を、超新星爆発の衝撃波が走るとき、衝撃波面で激しい圧縮が起き、新しい星が生まれます。
★話が飛びまわりましたが、「かぐや」打ち上げ時のH2Aロケットの先端に現れた「白い帽子」は、この「衝撃波」を白い雲の形で、肉眼で観察していた、といっていいでしょう。
珍しいものを見ました。
ジェット機が音速を超えていく時に「音の壁を超える瞬間」という写真は結構有名です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/Prandtl-Glauert_Singularity
ここをご覧ください。美しい写真が見られます。
「Prandtl-Glauert Singularity」というのだそうです、専門的には。
こういう有名な写真を知っていることも楽しいですが、ロケット打ち上げを見ていて、「あっ、音速を超えていく!」と、自分の眼で、確認することができるというのも実に楽しいことです。頭の隅にでもご記憶ください。
さすがに美しく撮れています。
ところで、9月30日付の朝日新聞の記事で、その後の「かぐや」のニュースがありました。最後に付け加えておきます。
かぐや、2度目の軌道調整 月めざし、地球に別れ
2007年09月30日00時20分
月探査機「かぐや」は29日、地球の周回軌道から離れて月の周回軌道へ向かうため、2度目の軌道調整をした。宇宙航空研究開発機構によると、同日昼に地球から約8500キロまで接近。計画通りエンジンを噴かして軌道を変え、順調に月をめざしているという。10月4日に月の周回軌道に入る見込みだ。
かぐやは、14日に鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられた後、約2週間かけて超長円の地球周回軌道を2周した。
地球から月までの距離は約38万キロで、直接目指せば数日で到達できるが、今回は約1年間の観測に不可欠な太陽電池パネルやアンテナの準備などに十分な余裕を持たせるため、あえて回り道したという。
月に近づくと、最初は月からの距離が約100~1万3000キロの長円軌道に入る。この「難関」をくぐり抜けると、月との距離を少しずつ詰めながら2基の子衛星を分離。高度100キロを回る円軌道に乗れば、12月中旬から観測を始める予定だ。
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