蚊
ヒトスジシマカですね。私の左手の甲にとまって、吸血を始めました。蚊のメスは、動物の体温や二酸化炭素を感じ取って飛来し、吸血するのですが、ちゃんと静脈の上にとまっています。どういうふうにして判るのでしょう?単なる偶然とは思えないのですが。
さて、左の写真より右の方が、針が深く刺さっています。すると、実際に皮膚に刺さっていく針を包んでいた「下唇」は皮膚には入っていけないので、弓なりになって皮膚の上に残ります。その様子が写っているのですが、おわかりでしょうか?
すでに、吸血が始まっていて蚊の腹部が膨らんできているのもわかると思います。
この、後ろ脚1対を高く上げた独特のスタイルが、かゆいけれど「かっこいい」と思うのは、私だけでしょうか?
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さて、
「昆虫の誕生 一千万種への進化と分化」石川良輔 著、中公新書1327、1996年10月25日発行
から引用します。
昆虫の口器は、各体節に1対あった「脚」が変形したものと考えられます。
蚊の「針」は、注射針のような完全な「筒」ではないのです。(蝶のゼンマイのような口器も一本の筒状の管ではなく、2本左右から合わせて管にします。蛹から羽化した直後の蝶を見ていれば、この動作を見ることができます。)
続いて
「蚊の不思議 多様性生物学」編著者 宮城一郎、東海大学出版会、2002年2月20日 第1版第1刷発行
から引用します。
●口器の構造
・・・
蚊の口器は、1個の上唇、1個の下唇、1個の下咽頭、1対の大顎、1対の小顎からなる。
・・・
下唇は両縁が上向きに丸まって他の構造物を納める鞘を形成する(図1C)。私たちが蚊の吻とみなしているのは、正確にいえば、下唇である。下唇以外の部分は外からは見えない。
下唇と対照的に、上唇は下向きに丸まって、ストローのような中空の管を形成する。この管は消化管につながっている。・・・。大顎と小顎の先端部は扁平で、小顎では、そこに小さな歯が並んでノコギリのような構造になっている(図1D)。大顎と下咽頭は、上唇の割れ目をふさぐように位置している。下咽頭を貫通する細い唾液管は、唾液を分泌する唾液腺につながっている。●皮膚の貫通
・・・。小顎は、その基部に接続する複数の筋肉の働きによって、前後に動かせる。左右の小顎は、それぞれの筋肉によって独立に動く。・・・。
挿入が進むに伴い、皮膚状に残された下唇は下側に弓なりにたわんでくる(図2)。・・・。
腕で吸血を始めた蚊は観察しやすい。いったん吸血を始めた蚊は、腕を少々動かしたくらいでは逃げない。明かりを背景にすると蚊の体内が透けて見える。ほどなく赤い血液が体内を流れ始め、腹部が見る間にふくらんでゆく。自分が被害者であることをしばし忘れて見とれてしまうほど鮮やかな技である。●血液の吸い上げ
・・・。
首尾よく血管を探知できると吸い上げが始まる。・・・。
私たちは、息を吸う力を利用して液体を吸い上げる。昆虫は、体節に開口した気門から空気の入出をするので肺はなく、口では呼吸しない昆虫が、血液や植物の汁などを吸い上げることができるのは、体内に備え付けのポンプを持っているからである。・・・。
蚊のポンプは頭部にある(図3A)。2個のポンプが連動して効率よく血液を吸引する。・・・。●唾液の役割
・・・。
蚊がすみやかに吸血するためには、止血を抑制しなければならない。そのために大きな働きをするのが唾液である。
唾液は唾液腺で形成され、下咽頭の管を通って吸血時に放出される。蚊の唾液には血液の消化に役立つ酵素は含まれていない。・・・。
蚊の唾液から血液凝固抑制因子が検出されることもある、しかし、その実体は未解明で、種によっては検出されない。さらに研究が必要である。●吸血の停止
私たちは満腹すると飲食をやめる。蚊では消化管ではなく腹部の膨張が吸血をやめる刺激になる。・・・。
正常な蚊は自分の体重ほど吸血する。体重が増加するから、吸血直後は短距離をよろよろ飛ぶだけである。腹部の神経索を切断すると吸血量が増える。・・・。
腹部の膨張により吸血をやめた蚊は、皮膚に挿入していた口器を抜き取る。その際には脚を踏ん張って力を込めている。口器を抜き取ったらすぐに飛び去ってしまう。人間の立場としてはその前に殺すべきである。この蚊が産卵して次世代の蚊が生まれるのだから。ところがここまで観察してくると、なかなか手が出ない。ためらっているうちに逃げられて、なんとなくほっとする。
もう、私があれこれ言う必要はありませんね。すごいでしょ。感動しますね。今度蚊に刺されたら、これを思い出してください。叩いちゃってもいいですよ。でも、叩く前に一瞬、蚊の生きる姿を見てあげてくれると嬉しいですね。
ところで、NHKに「ミクロワールド」という理科の映像番組があるのですが、2007年度の、8/20(月),28(火),9/4(火)放送の「蚊 吸血の秘密」という5分間の番組がありました。
ここで、実際に吸血する蚊の動画が見られました。また、蚊の口器の画像も見せてくれました。「頭部を振動させて針を挿入していく」というナレーションもありました。
左右の小顎をもむように前後させてノコギリを使い、皮膚に切りこんでいくということは知っていましたが、頭全体も前後に振動させてノコギリを使っていたのだとは知りませんでした。
動画を見ることはできませんが、重要なシーンの静止画は下のサイトで見られます。興味のある方はどうぞ。
http://www.nhk.or.jp/micro/ja/frame.html
多分、今年度いっぱいはここに画像が置かれているのではないでしょうか。
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コメント
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蚊ってすごいのですね。感動してしまいました。
足をあげるスタイルにかっこよさを感じることのできる感性もまた素晴しいと思います。
蚊をみる目が変わってしまいました。
口器の構造もわかりやすくてこんなに複雑だったとは驚きです。
お腹が膨らんでいくところが見てみたいので今度蚊に気付いたらじっくり観察してみます^^
投稿: マキル | 2008年8月22日 (金) 22時08分
もとは化学教師なのですが、子どものころからの虫好き。それも、標本をつくるたちではなく、飼育し、生きる姿を鑑賞するのが好きなのです。夫婦で30年来アゲハや、アオスジアゲハの飼育をし、子と一緒にカマキリの継代飼育を6年間も続け・・・という具合です。昆虫の体の基本構造はみんな同じなのに、昆虫という世界の多様さは底が知れません。虫と同居する必要はありませんが、虫との付き合い方を多くの人が身につけてくれたらいいな、と思っています。
投稿: かかし | 2008年8月25日 (月) 11時01分