◆私の家のオシロイバナは赤なのですが、ご近所にこういう咲き方をしているオシロイバナがありました。
同じ茎から分岐して咲いているのに、赤い花と紅白の「絞り」というのか「斑入り」というのか、異なる色の花が咲いているのです。
まいったなぁ。高校レベルで学習するメンデル遺伝ではありません。
見てください。赤一色の花、白一色の花、ピンクの花、斑入りの花・・・。
もうこうなったら、どんな混ざり具合でも驚きませんね。
少々(かなり)呆れ気味です。
◆これはいったい何なのでしょう?
おそらく「トランスポゾン」という「動く遺伝子」のせいです。
オシロイバナの花が赤いというのは、赤い色素をつくる酵素を遺伝子が作るからです。
その酵素を作れなくなると、花は白くなります。
赤い色素をつくる酵素の遺伝子の働きが弱くなると多分花の色がピンクになるのでしょう。
トランスポゾンが酵素の遺伝子に割り込んで酵素が作れなくなると、白い花になるのでしょう。
◆このように、花の色がかなり無茶苦茶に変わるというできごとは、アサガオについてよく知られています。江戸時代から好事家が変わりアサガオを育ててきました。
アサガオの花の変化については、日本経済新聞社の「日経サイエンス」2001年9月号に
、仁田坂英二「変化アサガオの歴史と遺伝学」という論文が載っており、詳しく解説されています。トランスポゾンの話も詳しく載っています。
この雑誌が手に入らない方は、下のホームページを見てください。同じ著者の同じテーマの論文が掲載されています。
http://www.opack.jp/fair/a/a_6.html
ここに載っているアサガオの写真を見ると、冒頭に私が載せたオシロイバナの花の変化とほぼ並行な関係がありそうです。
http://mg.biology.kyushu-u.ac.jp/index.html
同じ仁田坂さんのアサガオの話が上のサイトから読めます。ここから「咲き分け・枝変わり」というページに行くとトランスポゾンによる変化の解説があります。また、アサガオの遺伝子リストなどもありますので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
◆オシロイバナの花の変化については、
http://jshs.ac.affrc.go.jp/congress/2004sp/16spring.htm によると
平成16年度園芸学会春季大会で「オシロイバナにおけるトランスポゾンの単離とベタシアニン合成系遺伝子候補の探索」という発表があったことがわかります。内容までは調べがつきません。
◆トランスポゾンについては以下のサイトなどを参考にお読みください。
http://www.fiberbit.net/user/biology/QA/items/seibutu69.html
http://www.plantbiotech.sci.ynu.ac.jp/meiosis/transposon.html
http://www2.tky.3web.ne.jp/~hidamari/suppl001.html
http://www2.kobe-u.ac.jp/~hkata/kenkyunaiyo%20PEACE.htm
http://www2.kmu.ac.jp/ann70/tenkai/makino/textm5.html
◆遺伝子が動き回る、などと聞くと、なんだかむずむずした気分です。
トランスポゾンが遺伝子に割り込んでその遺伝子の機能を失わせるということだと、トランスポゾンは「悪者」のように思われるかもしれませんが、そうとばかりは限らないのです。
遺伝子の機能が変化して、適応度が下がると子孫を残せなくなるかもしれませんが、「多様性を増加させる」というふうにもとらえられるのです。進化というのは直線的に「優れたものになる」というようなことでは全然ありません。
多様性を増し、環境、生態系のなかで新たな位置・地位を開発していくことなのです。「トランスポゾンというメカニズム」も、その多様性を獲得する原動力の一つとなっているのかもしれません。
◆2007年7月6日の朝日新聞にこんな記事が載っていました。
「刷り込み」の起源 DNA断片が関係? 東京医科歯科大
哺乳類で、遺伝子が父親由来か母親由来かで働いたり働かなかったりする「刷り込み」の起源には、動きまわるDNA断片「レトロトランスポゾン」が関係しているらしいことを、東京医科歯科大の石野史敏教授らが突き止めた。
注目したのは、レトロトランスポゾンが変化したとみられる、胎盤形成に欠かせない遺伝子Peg110。この遺伝子は哺乳類でも卵を産むカモノハシなど単孔類にはなく、カンガルーなど有袋類とマウスやヒトを含む真獣類にあることを確かめた。このため哺乳類の進化の過程で、有袋類の先祖に入り込んだレトロトランスポゾンがもとになったと考えられた。
詳しく調べると、有袋類のPeg10も真獣類と同様、母親に由来する場合は、DNAにメチル基がつく「メチル化」で遺伝子の働きが抑えられていた。しかし、父親由来の場合はメチル化されずに働いていた。
メチル化は、外来の遺伝子を抑える仕組みとして生物体内で使われている。「Peg10の働きを抑えるためにメチル化したが、何かのきっかけで父親由来の場合はメチル化されなくなり、これが刷り込みの起源になったのではないか。こうした考えが、レトロトランスポゾンがもとになった他の遺伝子についてもあてはまるかどうか調べていきたい」と石野さんは話している。
◆「源平咲き」という言葉を見つけました。上に紹介した神戸大学のサイトです。
ハナモモの中には源平咲きという一本の木にピンクの花や白地にピンクの斑が入った花が咲く咲き分け系統があります。
面白い言葉ですね。オシロイバナにも「源平咲き」がある、ということにしましょうか(勝手に)。