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2007年5月23日 (水)

みみず

朝日歌壇2007.5.21(月)より

産土の蚯蚓の赤さ赤さかな:(高岡市)野尻徹治

 文学的なことは分かりません。この句を読んでいて、ミミズに関していろいろなことが思い出されてしまいました。

「ミミズのたわごと」と笑ってお読み下さい。

◆ミミズはなぜ赤いのか?

★ミミズに関しては、最高の名著があります。昭和6年と古い本ですが、復刻版があります。

復刻「みみず」 畑井 新喜司 著
 発行日:1997年6月15日 初版第4刷、サイエンティスト社

この著書の37ページに「皮膚の色」という項があります。

 普通見られる蚯蚓の体色は何れも煉瓦色の赤さを呈して居るが、然し種々なみゝずを集めてみると稍(やや)黄色を呈するふとすじみゝず(Pheretima vittata)或は青銅色を帯びたくそみゝず(Pheretima hupeiensis)黒青色を呈した八田みゝず、紫黒色を呈している所謂九州、四国地方での山みゝず、夫れから全然無色で半透明な種類ではさくらみゝず(Allolobophora japonica)の如きがあります。・・・。
 斯くの如く蚯蚓の皮膚の色は種類によって異なって居るが、然し化学的に云ふと皆同性質の色素であるか否か・又此の体色は光線を厭み嫌ふみゝずの習性に何等かの関係ありや否やは面白い問題であるがみゝずの体色に関してはまだ研究があまり行はれて居りません。
 小林氏に依るとしまみゝずの皮膚の色素はポリフヰリン(Poryphyrin)であって哺乳類の血液に含まれて居るヘマトポリフヰリン(Haemato poryphyrin)と比較してみると、前者の吸収帯の赤色部が後者より赤の方に移動して居るさうであります。
 ・・・(後略)

◆文中「ポリフヰリン」となっているのは現在の「ポルフィリン」でしょうね。ヒトは赤血球中にヘモグロビンを持っていますが、ミミズは血液中にヘモグロビンを持っています。おそらくそのことを述べているのだと思います。

◆雨上がりにミミズがたくさん死んでいるのはなぜだろう?

同41ページに「呼吸」という項があります。

 吾々と同様みゝずも矢張り酸素を吸ひ二酸化炭素を排出して所謂呼吸作用を営んで居りますが、唯、みゝずには私共の様に特に呼吸を司る肺臓はありません。主に、皮膚の表面から酸素を吸ひ、二酸化炭素を排出するのであるが、或る程度迄は腸壁からも呼吸が営まれると申されて居ります。
 (後略)

同135ページの「死因」から

 ・・・
 雨降り上りの日、路上または公園地内に、時には幾百と云ふ蚯蚓の死屍を見る事があります。又時には路傍の泥溝(どぶ)の中に蚯蚓の死体を多数見る事があります。・・・。此の種の死因に関しては久しい以前から動物学者が注意を致し種々その死因に憶説を出し、又実験もされて居ります。・・・。
 (中略)
 雨水が土壌を通過する時、酸素が欠乏したのが第一原因となるけれども、直接原因としては有毒な二酸化炭素が水に段々増えて来るのを避けるために穴を這ひ出るのだらうと思はれます。一旦這ひ出た蚯蚓が日光に触れた時はMerker氏の実験せる如く、紫外光線の有害作用に長時間抵抗出来ずに麻痺状態に陥って運動不可能となり、其の中に日光のために体より水分を失ひ、遂に死亡するのだらうと思はれます。
 ・・・
 以上種々なる点を考慮してみると多数の蚯蚓が穴より這ひ出す原因に関しては多分二酸化炭素の蓄積を主な原因と考へ得るも斃死する理由の結論までにはまだまだ研究の余地が充分にあると考へられます。
 ・・・(後略)

◆新しいところで、ミミズといえばこの方です。

「ミミズのいる地球 大陸移動の生き証人」中村方子 著、中公新書1298、1996年4月発行
この本の36~37ページから引用します。太字は引用者による。

 代謝の終産物の排出は、一般的には体節ごとにある腎管で行われている。浅層活動性のフトミミズなどは、尿を主に消化管内に排泄し水を再吸収するので、比較的乾燥した土壌に適応している。その一方、水浸けには弱い
 循環器系は閉鎖血管系であり、消化管の背側と腹側に背行血管と腹行血管が縦に走っている。体の前部に横走血管があり、強い収縮性をもっていて、これを心臓と呼んでいる。体長約3.6mにもなるフトミミズ科の巨大ミミズ、メガスコリデス・オーストラリスは、16の心臓をもっていると新聞は報じているが、それはこの横走血管のことである。人間の血液は赤血球の中にヘモグロビンを含んでいるが、ミミズの血液は血漿中に血色素ヘモグロビンを含んでいる
 ・・・
 巨大ミミズは、肺のような特別の呼吸器官をもたずに空気呼吸を行っている最大の動物である。酸素は皮膚を通ってのみ、ゆっくりと血管に入っていく。空気の循環の遅い土壌中の大気は、このような大きな動物が充分な酸素をうるには炭酸ガス濃度は高く、酸素分圧は低い状態にある。したがってミミズは、酸素との親和力が人間より50倍も高い血液をもつことで、体を維持している。特に高濃度の炭酸ガスが存在するとき、ほとんどの動物の状態とは反対に、きわめて大きな酸素との親和力をもっている。こうしてこの巨大ミミズは"ゆっくり穴を掘って生活する"生き方を選び、わずかの酸素を用いてゆっくりした代謝を行っているのである。(本川達雄(1992)は、循環系はもつが特別な呼吸器系をもたないこのような大きなミミズの体の大きさが半径1.3mmを限度としていることを、体内と体外の酸素分圧の違いとガスの拡散速度から理論式を用いて整然と説明している。)
 (後略)

◆というわけで、ここまでの引用で完全に分かった、とまでは言い切れませんが、要するに「水浸しになったミミズは苦しくて地表に出てきてしまう」ということでしょうね。

 湿った体が空気と接して、空気から体表面の湿りに酸素が溶け込み、体内へは拡散によって酸素が供給されているのが常態です。それが、水浸しになってしまうと、酸素不足にはなるは、二酸化炭素は濃くなるは、で、苦しくなってしまうのでしょう。

◆こんなところで、一応の解決としたいと思います。

◆最後に、 畑井さんの「みみず」の巻頭言を引用して終わります。

    蚯蚓礼讃

自ら進んで釣魚の餌たるを辞せざるも 虚名を干支に列ぬるの累を避く
「鈍くしておかしげなる」との世評に甘んじ
悠悠自適 泥土を食ひ黄泉を飲み 敢えて利欲を地表に求めず
汲汲相励みて荒野を拓き 矻矻相勉めて沃土を作る
其体は蓋し研学の材たるべく
其屍は猶ほ霊薬の素たるべし
然れば蔡邕の知遇を得て勧学の篇に入り
透谷の詩眼に映じて跟影を紙帛に止む
祖先世に現はれて既に幾億歳
巨象の蹄を逃れ氷河の流れを避く
時に地殻の激震に厄せられ 血縁離散の悲しみに遇ふも
慈雨の降下に恵まれて繁栄の喜びを受く
年を送り歳を迎へて眷属益々蕃く
争はず犯さず 倶に天分を楽しみ共に苦楽を味ふ
是れ蚯蚓の偉とする所なり
世の懶婪憤怒の人 亦以て鑑とするに足らん乎
   昭和六年一月五日       畑 井 新 喜 司 

ひらがなで書き下ろしてみましたが、かえって読みにくいでしょうか。

    みみずらいさん
みずから すすんで ちょうぎょの えさたるを じせざるも きょめいを かんしに つらぬるの るいを さく
「のろくして おかしげなる」との せひょうに あまんじ
ゆうゆうじてき でいど をくひ こうせんを のみ あえて りよくを ちひょうに  もとめず
きゅうきゅう あい はげみて こうやを ひらき こつこつ あい つとめて よくどを つくる
その からだは けだし けんがくの ざい たるべく
その しかばねは なほ れいやくの もと たるべし
しかれば さいようの ちぐうを えて かんがくの へんに いり
とうこくの しがんに えいじて こんえいを しはくに とどむ
そせん よに あらはれて すでに いくおくさい
きょぞうの ひづめを のがれ ひょうがの ながれを さく
ときに ちかくの げきしんに やくせられ けつえん りさんの かなしみに あふも
じうの こうかに めぐまれて はんえいの よろこびを うく
としを おくり としを むかへて けんぞく ますます しげく
あらそはず おかさず ともに てんぶんを たのしみ ともに くらくを あじわふ
これ みみずの い とする ところ なり
よの らんらん ふんぬの ひと また もって かがみと するに たらんか

◆上で引用したほかにも、ミミズに関する、良書がありますので、ご紹介します。縁がありましたらお読み下さい。

「ミミズと土」チャールズ・ダーウィン 著、渡辺弘之 訳、平凡社ライブラリー56、1994年6月初版第1刷発行

「ミミズに魅せられて半世紀」中村方子 著、新日本出版社、2001年9月初版発行

「ミミズ 嫌われものの はたらきもの」渡辺弘之 著、東海大学出版会、2003年12月第1版第1刷発行

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◆オマケ。

今から40数年も前、中学生のころの生物の先生だったかな、が、授業中の、駄洒落のような、脱線話。(汽車が全部蒸気機関車で、のんびり走っていた時代のことだそうですが)

汽車に乗っていて、ふと目を覚まして、駅名を見ると

「やみのめゝす」となっていて、「闇のめめず(みみず)」などという駅名があったかなと、しばらく考えていたら、右から読むようになっていたのだそうです。

「すゞめのみや」=「雀の宮」だったというお話。

JR東北本線にちゃんと「雀の宮」という駅がありまして、実話だとおっしゃっていました。

◆どうも失礼しました。

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